認知症の方への接し方を考える

認知症には、「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」の二つの症状があります。家族や介護をしている方を悩ませるのは主に行動・心理症状(周辺症状)です。症状にあった治療をすることで認知症の症状も軽くなります。

 

認知症 中核症状 行動・心理症状(周辺症状)
症状

たった今したことを忘れる。
自分が今どこにいるのかわからなくなり、道に迷うなど、認知症の中心的な症状。

中核症状をもつ方が、感情的なもつれを背景として起こす(人間関係の)問題行動。
治療方法 症状の進行を抑制する薬剤とリハビリテーションなどによって、残っている知的機能をなるべく保つことが治療の中心となる。 治療薬によって、ある程度症状を軽くすることができる。睡眠導入剤、少量の抗精神病薬、抗うつ薬などを使用することが多い。

 

認知症の治療は薬物療法だけでなく、リハビリテーション、デイサービスといった公共のサービスを利用する方法もあります。治療の目的は、残っている身体的・精神的な機能を維持することです。その中で、「どのように認知症の患者さんと接するか」が非常に重要です。

 

認知症の記憶障害は非常に強いため、何度説明してもすぐ忘れてしまい、同じ質問や行動を繰り返します。そんな時、家族や介護者はイライラする感情を言葉に出してしまったり、つい厳しい口調で叱ってしまうことが多いようです。

 

しかし、認知症の患者さんは、「なぜ相手が怒っているのか」わからず不快に感じているのです。初めていわれたことなのに、「自分にいいがかりをつけてくるなんて、嫌な人だ」と思ってしまうのです。

 

認知症の患者さんが、同じことを繰り返し質問しても、なるべく穏やかな気持ちで接することが大切です。辛いことではありますが、毎回はじめてのつもりで対応しましょう。家族や介護者の適切な対応によっても、認知症の症状が改善します。

 

 

【食事のときの接し方】
認知症の記憶障害は、最近の記憶・行動全体を忘れてしまいます。そのため、食事をした行為そのものも忘れてしまいます。例えば、ご飯を食べたにもかかわらず、「まだご飯を食べていない」や「飢え死にさせるつもりか」などと言います。

 

しかし、これは恨みを持っていっているのではなく、食事をしたという行為自体を忘れてしまうために、こういった表現をしてしまうのです。こんな時に、「食べたでしょう」という言葉は、注意されたと誤解を与えてしまいます。「これから食べましょう」と軽い食事を出すなど、柔軟に接することが大切です。

 

 

【記憶の混同への接し方】
認知症の特徴として、最近の記憶は抜けてしまいますが、昔の記憶は残っていることが多いです。もうすでに会社を退職しているのに、背広を着て会社に行こうとしたり、孫がいるにもかかわらず、自分のこどもはまだ小学生だといったりします。

 

また、夕方頃になると自宅にいるのに、「自分の家に帰る」といいだすこともよくあります。こういった場合は、うまく本人に合わせた柔軟な対応をすることが大切です。

 

「これから帰りましょう」といって10分ほど散歩すること。また、外がすでに暗ければ、「今日はもう外が暗いから、今晩はお泊りになって、明日の朝お帰りください」などが良い対応の例です。

 

 

【認知症の症状の出方】
他人よりも身近の家族に対して症状が出やすい傾向があります。特に毎日介護している方に対して強く症状が出てしまいます。よって、家族は「何で自分達に対しては感謝しないばかりか、ひどい仕打ちをするのだろう」と、思いがちになります。

 

しかし、これは「自分達が家族である」という認識を、本人がもっているための行動(症状)です。つまり、心では家族を信頼している証拠なのです。難しいかもしれませんが、自分の置かれた状況を「判断する能力が残っている」のだと、ポジティブにとらえましょう。

 

 

【自己防衛本能と感情のしこり】
誰でも自分を守ろうとする本能が働きますが、認知症の方も同じです。例えば、尿失禁(おもらし)をしてしまった場合には、「孫がした」とか「水をこぼした」とか言い訳をします。これは「嘘つき」ではなく、自己防衛の本能が残っているための言い訳です。

 

認知症の方は、もの忘れは激しいのですが、自分の心に残った感情的なしこりは強く残っています。このことが非常に重要であり、特に注意が必要です。

 

例えば、衣替えで、せっかくしまった夏服を取り出された場合を想像してください。このときに、「なにやってるのよ、まったく」というと、認知症の方は、『わたしが服を入れ替えてるのに、なんでそんなこというの?』といやな気持ちになります。

 

この場合は、「ありがとうございます。あとは私がやりますから、お茶でも飲んでください。」といったほうが相手にいやな気持ちを残さずにすみます。

 

 

【こだわりへの接し方】
認知症の方は、ひとつの事柄に長時間こだわる場合も多いです。「サイフに3,000円入れていたはずなのに1,000円しかない。あなたが使ったんでしょ。」と言い張る場合があります。

 

「自分じゃない」と否定をしても、そのこだわりから抜け出すことは困難です。この場合は、こだわりを大事にして、「ごめんなさい。さっき集金がきたので借りたんです。」とうまく対応しましょう。なかなか、難しい対応ですが、一回一回の積み重ね(良い対応)が「認知症の悪化」を防ぎます。

 

感情を表に出してしまった場合、うるさい人、嫌な人、怖い人というマイナスな感情だけが残ります。「ありがとうございます、あとは私がやります」という対応をした場合には、「私のやっていた仕事を手伝ってくれて親切だな」とプラスの感情が残ります。

 

 

認知症の方を、現実の世界で対応するのは困難です。我々が、認知症の方の世界を理解し、その世界に合わせた対応をすることが大切です。認知症の方にとって、穏やかな気持ちでの生活が、行動・心理症状(周辺症状)をはじめとする問題行動を少なくします。

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