DPP-4阻害薬|糖尿病治療薬

​DPP-4阻害薬の特徴まとめ
①アジア人の2型糖尿病は、肥満度が軽度で早期からインスリン分泌が低下しやすい特徴がある。このためDPP-4阻害薬の有用性が高く、現在最も多く使用されている薬になっている。

 

②年齢、肥満度合併症の有無によらず、一般に安全に使用できるなど、糖尿病治療薬に望まれる多くの特徴がある。

 

③インスリンやインスリン分泌促進系の薬と併用すると、低血糖のリスクがある。特にSU剤の作用を強めることがあるので、併用する場合はSU薬を減量してから上乗せする。

 

④服用中は食事療法を徹底する必要がある。他剤と同様だが、食事療法が順守されていないと効果が発揮されにくい。

 

⑤発売後いまだ10年は経過していないので、長期服用の安全性などの観察が必要である。近年、国内外の種々の疫学調査から中・長期の安全性は確認されてきている。

 

インクレチンの血糖改善効果とDPP-4阻害薬の作用点
栄養物質の刺激によって、小腸上部粘膜のK細胞からGIP、小腸下部粘膜のL細胞からGLP-1というホルモン(インクレチン)が分泌されます。GIPとGLP-1は膵β細胞に働き、インスリン分泌を促進します。生体内では両者とも速やかにDPP-4という酵素で分解され効力を失います。

 

DPP-4阻害薬は、DPP-4を選択的に阻害し、インクレチン濃度を高めるように働きます。特にGLP-1濃度を高めることで、種々の代謝改善効果を発揮します。また、インスリン分泌促進効果とともに、グルカゴン分泌抑制効果も発揮し血糖を改善します。

 

 

DPP-4阻害薬の一覧と特徴

一般名 主な商品名 特徴
シタグリプチン グラクティブ/ジャヌビア 使用の歴史が長く、多くの研究データがある
ビルダグリプチン エクア 効果が比較的強力である
アログリプチン ネシーナ 心血管系の疾患を少なくする研究データがある
リナグリプチン トラゼンタ 肝障害や腎障害が顕著でも使用可能である
テネリグリプチン テネリア 各食後血糖を改善する・腎障害でも使用可である
アナグリプチン スイニー 脂質改善作用が強い
サキサグリプチン オングリザ 心血管系の疾患を少なくする研究データがある
トレラグリプチン ザファテック 週に一回服用するだけで良い
オマリグリプチン マリゼブ 週に一回服用するだけで良い

 

週1回製剤(トレラグリプチン、オマリグリプチン)は、次のような方に効果的だと考えられます。
・服薬を減らしたい方(薬の多さが負担である方、他に薬を飲んでいない方など)
・服薬が難しい方(超高齢者、視力障害者、認知症やうつ病で他者の補助が必要な方、嚥下障害で経口での服用が負担な方など)
・服薬管理が難しい方(服薬を忘れる方、泊まりや出張が多い方、夜勤など生活習慣が不規則な方など)

DPP-4阻害薬と「糖尿病治療薬に望まれる多くの特徴」

●良質な血糖改善効果
食後の血糖を改善し、1日の血糖変動を少なくします。つまり、血糖の上がり下がりを是正しながら、血糖を改善する作用があります。食事療法を乱さない限り、長期的に安定した血糖改善効果が維持できます。さらに、低血糖を起こしにくく安全に使用できます。

 

●高インスリン血症の回避効果
血糖が高い時に、インスリンを分泌させます。加えて、グルカゴンの分泌を制御し、インスリン抵抗性を改善させます。これらの総和で血糖が改善するため、不必要な高インスリン血症を回避できます。

 

●体重増加を伴わない
高インスリン血症や食欲亢進作用を伴わないため、肥満になりにくいです。また、食事・運動療法を適切に行うことで、体組成を改善(体脂肪量のみを減少)させやすいと考えられています。

 

●2型糖尿病の病態を改善する可能性
DPP-4阻害薬は、2型糖尿病の病態に関わるインクレチン効果不全を改善します。その働きで膵島(ランゲルハンス島)内のインスリン、グルカゴン、ソマトスタチンを調節(膵内分泌機能を調節)し抗炎症作用も期待されます。動物実験では、膵β細胞の保護作用が確認されています。(臨床的にもそれを裏付ける研究データが示されつつある。)

 

DPP-4阻害薬は、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチンを調節する

 

●他剤と併用すると効果が上がる
血糖(体内のブドウ糖濃度)が高い時にインスリンを分泌させます。つまり、インスリンまたはインスリン分泌促進系薬と併用しない限り、低血糖のリスクが少ないです。他の糖尿病治療薬と併用しても、血糖改善効果の追加が期待できます。また、ピオグリタゾン(商品名:アクトス)との併用では、ピオグリタゾンの副作用を減弱できる可能性があると考えられています。

 

服薬する上での利点
●服薬しやすい
食事時間に関係なく食前・食後いずれでも服用可能です。1日1~2回、または週1回の服用回数で済むため、実際に飲み忘れや飲み残しが少ないです。薬の服用量の調節は、腎障害がある場合を除き、ほとんど不要です。

 

●副作用が少ない
最も多い副作用は便秘ですが、他の副作用は少ないです。膵炎の発症は増加するかもしれませんが、膵がん、感染症などの増加はほぼ否定されています。また、免疫が乱れ、間質性肺炎、関節リウマチ、皮膚炎、類天疱瘡などの副作用も疑われていますが、明らかではありません。

 

●服薬対象者の制限が少ない
肥満・やせの区別なく、年齢・性・糖尿病歴(年数)にもよらず使用できます。さらに、超高齢者にも安全に使用可能です。

現代の生活習慣・肥満とインクレチン

ストレスや睡眠不足(交感神経が関与)、喫煙や口腔ケア不足(酸化ストレスが関与)は、インスリン抵抗性を引き起こし糖尿病を悪化させます。

 

また、不適切な食習慣(過食・高脂肪食・高単純糖質食)、運動不足、生活リズムの乱れも、インスリン抵抗性を引き起こします。これらは糖尿病の悪化だけでなく、内臓肥満、代謝障害(アディポカインの分泌破綻)、臓器障害の危険もあります。

 

インスリン抵抗性は、膵β細胞に過剰な負担をかけ食後高血糖(糖毒性)、持続的な高血糖を引き起こします。そして、これらがインスリンの分泌を悪化させ、糖尿病を悪化させます。これをインクレチンと絡めて考えてみると以下のように考えることができます。

 

高脂肪食や、高単純糖質食、低食物繊維食、容易に吸収される食物の摂取は、腸内細菌叢を変化させる可能性があります。さらに、消化管の下部よりも上部から吸収され、不均衡なインクレチン分泌(GLP-1の分泌は少なく、GIPが過剰に分泌される)状態になる可能性があります。

 

この結果として、GIPはインスリン分泌を高めるが、グルカゴン分泌は抑制せずに内臓脂肪を蓄積させます。さらに、GLP-1によるグルカゴン分泌抑制効果や食欲抑制効果は減弱します。

 

この状況下で身体活動不足、夜遅い食事、朝の欠食などの生活習慣の乱れがあると、時計遺伝子を狂わせ脂肪を蓄積をさせます。内臓脂肪が蓄積されると、腸内細菌叢の変化、アディポカイン分泌の乱れ、DPP-4の過剰が起こります。そして、インスリン抵抗性を引き起こします。

 

インスリン抵抗性は、膵β細胞へ負担をかけます。また、過剰に分泌されたDPP-4は、インクレチンによる膵保護効果が減弱させ、膵内分泌機能不全(インスリン分泌低下、グルカゴン分泌増加)を引き起こします。そして、耐糖能異常(血糖の異常)、糖毒性が生じるようになります。

 

糖毒性は、GIPの膵β細胞への作用を減弱させ、インクレチンの効果を減弱させます。インクレチン効果不全、膵内分泌機能不全、糖毒性の間には悪循環が生じ、放置すると糖尿病状態はどんどん悪化します。

 

このように、糖尿病の治療においては、比較的早期からDPP-4阻害薬使う意義があると言えます。そして、DPP-4阻害薬の効果を十分に発揮させるためには、食事運動に気をつけ、肥満を改善させる必要があるのです。

DPP-4阻害薬の注意点まとめ

他の薬を併用する場合は、病態の確認が必要
インスリン抵抗性を改善するためには、ビグアナイド薬チアゾリジン誘導体を使用します。

 

食後血糖を改善するためには、αグルコシダーゼ阻害薬グリニド薬を使用します。

 

内臓脂肪や異所性脂肪を減らしたい場合は、SGLT2阻害薬を使用しますが、食事療法と運動療法を守る必要があります。

 

インスリン分泌が不十分な場合には、少量のSU薬やインスリンを使用します。インスリンと併用する場合、内因性のインスリン分泌を促し、グルカゴン分泌を抑制することで、血糖変動幅を縮小し血糖改善が期待できます。(低血糖に注意

 

SU薬と併用する場合、重篤な低血糖昏睡を起こすことがある
SU薬を使用している方にDPP-4阻害薬を使用する場合は、SU薬を減量したのち使用することが望まれます。一般的に、高齢者や腎機能低下の方には、高用量のSU薬は使用しません。

 

世界の中でも日本人に有用性が高い
SAVOR-TIMI(サクサグリプチン)、EXAMINE(アログリプチン)、TECOS(シタグリプチン)の各心血管アウトカム試験で、2型糖尿病患者の心血管イベント発生率、全死亡、心血管死、非心血管死のいずれも増加させず、重篤な副作用も確認されていません。しかし、発売後いまだ10年は経過していないので、症例毎に観察を続けることが望まれます。

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