慢性肝疾患患者における掻痒症

肝臓の病気である「肝硬変」になると、肝臓で作られる胆汁が正常に循環しなくなること(うっ滞)により、からだにかゆみが発生する場合があります。胆汁の中の成分(胆汁酸)が蓄積し、かゆみの原因であるヒスタミンを増加させることが、かゆみ発生のメカニズムだと考えられています。

 

強いかゆみがあると、眠れなくなってしまう方も多いようです。かゆみを抑えるためには、かゆみの原因を取り除くことと掻かないことが大切です。掻いてしまうと、その刺激によって更なるかゆみ物質ヒスタミンを分泌させてしまいます。

 

この「肝硬変」や「慢性肝疾患(慢性肝炎)」によるかゆみは、一般的なかゆみの治療薬(抗ヒスタミン薬)では効かない場合が多いです。そこで、高コレステロール血症を治療する2つの薬剤が使われることがあります。以下の表にて、どのような薬剤なのか比較します。(2015年に追加されたナルフラフィンは、ページ下部)

 

商品名

コレバイン錠500mg
コレバインミニ83%

クエストラン粉末
薬のかたち 錠剤と顆粒 粉末
一般名 コレスチミド コレスチラミン
用法用量 通常、成人にはコレスチミドとして1回1.5g(錠は3錠、ミニは1.81g)を1日2回、朝夕食前に水とともに経口投与する。最高用量は1日4gとする。 通常成人にはコレスチラミン無水物として1回4gを水約100mLに懸濁し、1日2~3回服用する。
重要な基本的注意 本剤は十分量(200mL程度)の水で服用させること。のどの奥に残った場合には、さらに水を飲み足させること。 粉のまま服用した際、誤嚥することで呼吸困難を起こすことがある。必ず懸濁してから服用する。
作用機序 コレスチミドは消化管で胆汁酸を吸着し、その排泄促進作用により胆汁酸の腸肝循環を阻害し、肝におけるコレステロールから胆汁酸への異化を亢進する。 本剤は陰イオン交換樹脂であり、消化管内で胆汁酸、陰イオン性物質や酸性物質等と結合してその吸収を遅延・抑制させる。

特徴

1回あたりの服用量がクエストラン粉末に比べて少ない。また、懸濁しなくてよいため、服用時の負担が少ないことが利点である。 添付文書上では、コレバインミニと比べて1回の水分量が少ない。ただし、クエストランは服用時に懸濁する必要がある。

<補足>
コレバインミニ83%、クエストラン粉末44.4%共に、陰イオン交換という作用機序により胆汁酸の排泄を促進します。慢性肝疾患患者における掻痒症への効能を示す文献報告も多数あります。しかし、かゆみへの効能は保険適応ではありませんので、基本的に自費での診療になります。

かゆみを防ぐスキンケア

スキンケアとは、皮膚を健康に保つことであり、皮膚を清潔にし乾燥を防ぐことが大切だといわれます。乾燥を防ぐためには、保湿剤が有効です。特にお風呂あがりは、5分以内など早めに使用することが効果的です。その際、手のひらで全体に伸ばすように塗るのがコツです。

 

また、汗を放置すること、つめで皮膚を引っ掻くこと、衣類での刺激、化粧品での刺激を避けることも大切です。つめは、つめ切りやヤスリを使って手入れをし、伸びすぎや尖った状態にしないようにしましょう。外的な刺激を避けることも、かゆみを悪化させないために重要です。

 

さらに、エアコンなどによる乾燥も皮膚の大敵です。適度な温度・湿度を保つことも大切です。

注目される「ナルフラフィン」(保険適応あり)

ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(レミッチノピコール)という薬が、血液透析患者や慢性肝疾患患者における「そう痒症(かゆみ)」に対して注目をされています。

 

ナルフラフィンは、もともと血液透析患者の「かゆみ」に対して用いられていましたが、2015年5月、慢性肝疾患(肝硬変など)がある方にも使用が可能になりました。

 

慢性肝疾患の2割が痒みを伴います。(50万人中10万人)また、PBC患者(原発性胆汁性肝硬変)の69%が痒みを感じているといわれます。

 

そして、かゆみの種類は、以下の2種類があります。
末梢性痒み:ヒスタミン、プロテアーゼが関わる
中枢性痒み: オピオイドμ受容体が関与

 

人のからだの中で、βエンドルフィンなどの物質が「μ受容体」に結合すると痒みを引き起こします。しかし、ダイノルフィンという物質が「κ受容体」に結合するとかゆみを抑えることができます。からだを掻いたり、冷やしたりするとかゆみが改善する現象も、この「ダイノルフィン」という物質が関係しています。

 

ナルフラフィンは、「ダイノルフィン」と同じようにオピオイドκ受容に作用し、痒みを抑制する薬です。飲んだらすぐに効くのではなく、数日後から1週間程度で効果がではじめるといわれます。



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