高齢者の消化器系疾患と薬

​高齢者は、薬による有害事象の頻度が高く、重症例が多いといわれます。薬物療法の安全性を高めるために、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015:日本老年医学会」が作成されています。その中から、特に注意するべき内容をまとめました。

 

お願い:薬を急に中止することは危険です。気になる内容がありましたら、かかりつけ医・かかりつけ薬剤師にご相談ください。

 

消化器系疾患の薬に関する注意点

抗コリン薬は必要最小限の使用を
過活動膀胱、パーキンソン病、うつ病、蕁麻疹などの疾患に使われる「抗コリン薬(※)」は、認知機能低下やせん妄のリスク、過鎮静、口内乾燥、便秘、排尿障害などの有害事象をもたらす。したがって、これらの薬剤は可能な限り使用を控えること。代替薬がある場合はその薬に変更するが、代替薬がない場合は必要最小限の使用にとどめる。

安全といわれる酸化マグネシウムの注意点
高齢者の便秘の原因は、「他の疾患に対する治療薬」が関わっていることがある。①で紹介した「抗コリン薬」が主な原因となるため、注意が必要である。

 

浸透圧下剤の酸化マグネシウム(商品名:マグミットなど)は、腎機能が低下している高齢者において、高マグネシウム血症のリスクが増大する。用法・用量を厳守し、低用量から服用を開始することが重要である。

 

開始後は、採血により血清マグネシウム値を確認する。数値が上昇したり、高マグネシウム血症の症状(悪心・嘔吐、血圧低下、徐脈、筋力低下、眠気など)が出た場合は使用を中止し、他の下剤への変更を検討する。

 

なお、酸化マグネシウムは活性型ビタミンD3との併用で高マグネシウム血症を起こす可能性など、併用薬に注意が必要である。

腸を動かす刺激性下剤の注意点
刺激性下剤は、数時間で効果が現れ、排便回数や便の硬さなど排便状態を改善させる。腸管を強制的に動かすため、腹痛や水のような下痢による脱水・電解質異常などの有害事象の発生頻度も高い。

 

長期間使用することで耐性や習慣性が生じるため、漫然と連用すべきでない。他の薬と併用したり、用量を工夫し、あくまで頓用(症状に合わせて)で使用すべきである。

胃酸を抑える薬の使い方
高齢者において、胃食道逆流症(GERD)の初期治療(4〜8週)では、PPI(ラベプラゾール、ランソプラゾール、エソメプラゾールなど)が、第一選択薬と考えられる。PPIは、H2受容体拮抗薬(ファモチジン、ラニチジンなど)や消化管運動改善薬(モサプリドなど)よりも優れた食道炎の治癒、症状の改善をもたらす。

胃酸を抑えるH2ブロッカー(H2受容体拮抗薬)の注意点
H2受容体拮抗薬(ファモチジン、ラニチジンなど)は、認知機能低下、せん妄をひきおこすリスクがある。このため可能な限り使用を控えることが望ましい。

 

また、高齢者では腎機能が低下していることが多く、H2受容体拮抗薬がからだの中にとどまりやすい。必要な場合は少量から慎重に使用する。

PPIを長期に使用する際の注意点
一般にPPIは、有効性や安全性が高いといわれる。一方で、近年PPIを長期服用すると骨折のリスク(大腿骨頸部骨折のリスクが1.25倍など)やクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)のリスクが高まることが報告されている。

 

だからといって、「PPIを本当に必要な人に投与してはいけない」というわけではない。「PPIを長期間使用すること」よりも、「骨粗しょう症以外に大腿骨頸部骨折のリスクのある患者」へ新たにPPIを投与することが「骨折のリスクを高くする」と報告されている。

 

このため、リスクのある患者への新規投与は慎重に、可能な限り控えることが望ましい。

 

①日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:中
②日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:低
③日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:低
④日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:中
⑤日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:中
⑥日本老年医学会の推奨度:弱、エビデンス(根拠)の質:不十分

 

 

※抗コリン薬はたくさんの種類があります。使用している薬が「抗コリン薬」かどうかは、かかりつけの薬局・薬剤師にお聞きください。

 

 

便秘の治療薬まとめ
食事や生活習慣の見直しを行っても便秘が改善しない場合に、薬物療法を行います。主な便秘の治療薬には、次のような薬を使います。中でも、浸透圧下剤や刺激性下剤がよく使用されます。

種類 主な医薬品 備考(作用機序など)
膨張性下剤

カルメロース(商品名:バルコーゼ)
カンテン

薬自体が水分を吸収し膨張する。この物質が腸管を刺激し、腸管を動かす。
浸透圧下剤

酸化マグネシウム(商品名:マグミット)
ラクツロース(商品名:モニラック、ピアーレなど)

腸管内の浸透圧が上がり、腸内に水分が取り込まれる。便が柔らかくなることで、排便がスムーズになる。
刺激性下剤

センナ(商品名:アローゼン、ヨーデルなど)
ピコスルファート(商品名:ラキソベロンなど)
ダイオウ(大黄甘草湯などの「漢方薬」に入っていることが多い)

腸管を動かし、便を押し出す。(腸管を強制的に動かすため、腹痛や下痢に注意。)
クロライドチャネル・アクチベーター ルビプロストン(商品名:アミティーザ) 小腸にある「クロライドチャネル」を活性化し、小腸内への水分分泌を促し便を柔らかくする。
グアニル酸シクラーゼC受容体アゴニスト リナクロチド(商品名:リンゼス) グアニル酸シクラーゼC受容体を刺激することで、「クロライドチャネル」を活性化し、小腸内への水分分泌を促し便を柔らかくする。腸管輸送能促進作用、大腸痛覚過敏改善作用がある。

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参考:日本老年医学会
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015
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より詳しい情報知りたい方は、書籍の購入をオススメします。



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