高齢者の服薬管理とその支援

​​高齢者は、薬による有害事象の頻度が高く、重症例が多いといわれます。薬物療法の安全性を高めるために、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015:日本老年医学会」が作成されています。その中から、特に注意するべき内容をまとめました。

 

お願い:薬を急に中止することは危険です。気になる内容がありましたら、かかりつけ医・かかりつけ薬剤師にご相談ください。

 

高齢者は、服用している薬の種類が多いだけでなく、服薬管理の能力が低下します。このため、薬をきちんと服用できづらくなります。服用できなければ「効果が得られない」だけでなく、中途半端な服薬は「薬物有害事象」につながる危険もあります。

 

高齢者は認知機能障害、うつ状態、自覚的健康感の悪化、医療知識の不足、独居、難聴、視力低下などがあり、これらもまた「服薬管理能力低下」につながります。

 

服薬管理能力の低下は、認知症で最も早期に見られる症状の1つです。認知機能や日常生活動作(ADL)などの評価は、服薬管理能力の把握につながります。しかし、このレベルの認知機能障害に気づくのはとても難しいことです。

 

「服用できず残った薬(残薬)」を数えることや、家族に生活状況や残薬をチェックしてもらうことも重要です。医療従事者は、新な薬を患者に交付する前に「きちんと服薬しているかどうか」を確認すべきです。

 

服薬管理能力に問題がないと思われる方においても、処方や管理に工夫をすることで、将来的に服薬管理に困らないようにできます。

服薬で困る場合は医師・薬剤師に相談を

薬剤の種類はなるべく単剤で、1日1回の服用で済むことが望ましいとされます。基本的に、適切な薬を十分量まで、有害事象に注意しながら増量し治療を行います。例えば、血圧のコントロールができないからといって「中途半端な用量で、すぐに何種類もの薬を服用すること」は避けるべきです。増量の効果が期待できない場合は、他の薬剤に切り替えることが大切です。

 

それでも、治療がうまくいかないときに「薬の併用」を考慮しますが、配合剤の使用もあわせて検討するべきです。配合剤は、2種類以上の薬が1剤にまとまった薬ですが、服薬管理が26%ほど改善する報告があります。

 

しかし、医師は時間的余裕も少なく、薬の服薬状況を把握するのは容易ではありません。実際、「認知機能障害のため飲み忘れが頻繁にあってもその自覚がない患者」、「薬を飲む前から副作用が心配で、自己中断する患者」が大勢います。このような状況を把握するには、患者本人への聞き取りだけでなく、家族や介護士、看護師、薬剤師などの協力がとても大切です。

 

処方情報共有するツールとして「お薬手帳」があります。「薬の変更の理由、病名、検査値などを記入すること」は、薬剤師や医師、看護師が「より良い医療」を提供することにつながります。

 

服薬管理をよくするための工夫

  • 服用方法の簡便化(一包化やお薬カレンダーの利用など)
  • 服薬回数を少なくする(1日3回から1日1回に変更など)
  • 介護者が管理しやすい用法の検討(朝食後から夕食後に変更など)
  • 剤形の工夫(口の中で溶けやすい錠剤に変更など)

 

家族や介護者が薬を支援する際の工夫

  • 食事と一緒に薬を準備する
  • 健康管理と一緒に薬を準備する(「血圧測定したら降圧薬を服用する」など)
  • 外出するときにはピルケースを利用する
  • 服薬チェックシートを利用する

 

 

一般に「疾患別の専門医療を受けることが最善の医療」のように思われがちですが、高齢者にとっては必ずしもそうではありません。「過少でも過剰でもない適切な医療、および残された期間の生活の質(QOL)を大切にする医療が最善の医療である」と日本老年医学会の立場表明で述べられています。

 

かかりつけ医がハンドルを握り、徐行してでも安全運転を目指すことが大切です。つまり、処方薬はかかりつけ医が一元管理し、治療目的や生活状況を考えながら取捨選択を行うことが求められます。もちろん、必要に応じて専門医に意見を求めることも大切であると考えらえます。

 

処方薬を一元化できない場合、薬局だけでも一元化することが望まれます。かかりつけ薬局で患者情報を全て把握することは、重複処方、併用禁忌の発見など、より良い医療につながります。服薬指導、残薬確認、お薬相談も「かかりつけ薬局」ならではの重要な機能です。

 

最後の手段ですが、薬局の一元化もできないときには「お薬手帳」によって情報の共有を行いましょう。

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