高齢者の不眠症と薬
高齢者は、薬による有害事象の頻度が高く、重症例が多いといわれます。薬物療法の安全性を高めるために、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015:日本老年医学会」が作成されています。その中から、特に注意するべき内容をまとめました。
お願い:薬を急に中止することは危険です。気になる内容がありましたら、かかりつけ医・かかりつけ薬剤師にご相談ください。
高齢者の「不眠症治療」で注意するべきこと
①ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬は、認知機能低下、転倒・骨折、日中の倦怠感などのリスクがあるので可能な限り使用は控え、特に長時間作用型は使用するべきでない。
②非ベンゾジアゼピン系睡眠薬にも転倒・骨折のリスクが報告されており、漫然と長期投与せず、少量の使用にとどめるなど、慎重に使用する。
①日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:高
②日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:中
特に慎重な投与を要する薬物のリスト(一部を紹介)
ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬
代表的な一般名 | 代表的な商品名 | 半減期(薬の効果が半分になる時間の目安) | 使用すべきでない理由 |
---|---|---|---|
フルラゼパム | ダルメート | 24時間以上 | 効果が長時間続くため |
ハロキサゾラム | ソメリン | 24時間以上 | 効果が長時間続くため |
ジアゼパム | セルシン | 20~100時間 | 効果が長時間続くため |
トリアゾラム | ハルシオン | 2.9時間 | 効果は短時間だが、健忘のリスクがあるため |
エチゾラム | デパス | 3~6時間 |
過度の鎮静、認知機能の低下、せん妄、転倒・骨折、運動機能の低下のリスクがあります。上記の系統の「他の薬剤」も可能な限り使用を控えることが望まれます。使用する場合は「必要最低量をできるだけ短期間使用」に限ります。
クアゼパム(商品名:ドラール他、半減期37時間)は、筋弛緩作用が弱く、高齢者の不眠に有効との報告があります。しかし、効果が長時間続くため、慎重に投与すべき薬剤です。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
代表的な一般名 | 代表的な商品名 | 半減期(薬の効果が半分になる時間の目安) |
---|---|---|
ゾピクロン | アモバン | 3.7時間 |
ゾルピデム | マイスリー | 2.1時間 |
エスゾピクロン | ルネスタ | 5.1時間 |
いずれも筋弛緩作用が弱い薬剤です。しかし、転倒・骨折などのリスクがあります。漫然と投与せず、減量や中止の検討、最小の使用にとどめることが望まれます。
非薬物療法と薬物療法
高齢者は若年成人に比べ、睡眠の質が低下します。ぐっすり眠る睡眠である「徐波睡眠」の割合が減少し、「浅い睡眠」の割合が増加します。この結果、寝つきが悪くなったり、何度も目がさめる「中途覚醒」が多くなり、睡眠時間が短くなります。
不眠の原因として、うつ病、せん妄、むずむず足(restless leg症候群)、皮膚の痒み、無呼吸(呼吸困難)、夜間の頻尿などが考えられます。また、ステロイド製剤、抗パーキンソン病薬などの薬が、不眠の原因になることもあります。明らかな原因がない不眠には、非薬物療法と薬物療法の選択肢があります。
不眠に対する非薬物療法
- 定時に起き、定時に眠る
- 朝方の日光浴、日の光で起きる
- 適度な運動(散歩など)
- お昼寝の時間は短くする
- 寝る前の過剰な水分摂取を控える
- アルコール・ニコチンを制限する
- 寝室環境を静穏な状況へ整備する
不眠に対する薬物療法を実施する場合、リスクとベネフィットのバランスを考える必要があります。高齢者は比較的、「睡眠薬による副作用のリスク」が高くなります。つまり、適切な薬剤の選択、用量の設定が重要です。作用時間が短く、筋弛緩作用や抗コリン作用が少ない薬剤を選択します。併せて非薬物療法を取り入れるとより有効です。
睡眠薬の中止は、長期使用の際は依存もあり容易ではありません。減量や他の薬剤への切り替えなど、さまざまな工夫が必要です。
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参考:日本老年医学会
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015
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