高齢者の呼吸器疾患と薬
高齢者は、薬による有害事象の頻度が高く、重症例が多いといわれます。薬物療法の安全性を高めるために、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015:日本老年医学会」が作成されています。その中から、特に注意するべき内容をまとめました。
お願い:薬を急に中止することは危険です。気になる内容がありましたら、かかりつけ医・かかりつけ薬剤師にご相談ください。
COPDと肺炎は、年齢とともに「罹患する割合」や「死亡率」が上昇します。これらの疾患は、超高齢社会が進む日本において、今後ますます問題となるでしょう。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の薬に関する注意点
①慢性安定期のCOPD患者には、全身性ステロイド薬(内服や注射薬など)を使用するべきでない。その理由として「全身性ステロイド薬」は、呼吸筋の筋力や機能を低下させ「呼吸不全を助長」したり、消化性潰瘍の発生を高めるためである。経口ステロイド薬の長期投与が死亡リスクを高める報告がある。(米国のNational Emphysema Treatmentのデータ解析)
②「非選択的β遮断薬(主に高血圧・狭心症・不整脈に使用される薬)」は、気管支の攣縮や徐脈を引き起こす危険があるため、投与を控えるべきである。
③インフルエンザワクチンは、すべてのCOPD患者に接種が勧められる。COPDが増悪する頻度を抑え、インフルエンザや肺炎による入院を30%減少させ、死亡率を50%減らすことが確認されている。
誤嚥性肺炎を予防するためのACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬
④ACE阻害薬は、「誤嚥性肺炎を起こしやすい高血圧患者」において、肺炎の予防効果があり投与が勧められる。その機序は、ACE阻害薬がサブスタンスPの分解を阻害することである。サブスタンスPの分解が阻害されることにより、咽頭および喉頭・気道粘膜のサブスタンスPの濃度が高くなると、「嚥下反射・咳反射が正常化」する。
①日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:高
②日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:高
③日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:高
④日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:中
慢性閉塞性肺疾患(COPD)と薬
慢性安定期のCOPD患者には、「A.吸入長時間作用性抗コリン薬(LAMA)」、「B.長時間作用性β2刺激薬(LABA)」、「C.吸入ステロイド(ICS)/長時間作用性β2刺激薬(LABA)配合薬」、「D.徐放性テオフィリン」が使用されます。
A.吸入長時間作用性抗コリン薬(LAMA)
COPDを治療する際の「第一選択薬」です。息切れが強いなど、QOL(生活の質)が低下した患者に有効です。また、症状の増悪を繰り返す患者にも有効といわれます。
吸入長時間作用性抗コリン薬(LAMA)一覧とその注意点
商品名 | 一般名称 |
---|---|
エクリラ | アクリジニウム |
エンクラッセ | ウメクリジニウム |
シーブリ | グリコピロニウム |
スピリーバ | チオトロピウム |
LAMAは、閉塞隅角緑内障の患者に禁忌であり、使用できません。しかし、開放隅角緑内障の患者には投与可能です。どちらにせよ、眼科への受診が勧められます。また、前立腺肥大の患者には、排尿困難を悪化させる危険性があるので注意です。その他の副作用として、口渇や便秘があります。
B.長時間作用性β2刺激薬(LABA)
吸入長時間作用性抗コリン薬(LAMA)と同様に、COPD治療の第一選択薬です。代表的なインダカテロール(商品名:オンブレス)は、1日1回吸入するタイプの長時間作用性β2刺激薬(LABA)です。
1日1回なので、比較的吸入しやすいといわれます。「アドヒアランスの低下した(積極的に吸入しない)COPD患者」に対して推奨されます。
β2刺激薬の副作用ですが、「頻脈、手の震え、吸入後の酸素濃度低下、低カリウム血症、睡眠障害など」に注意が必要です。
LAMA/LABAの配合剤一覧
商品名 | 一般名称 |
---|---|
アノーロ | ウメクリジニウム/ビランテロール |
スピオルト | チオトロピウム/オロダテロール |
ウルティブロ | グリコピロニウム/インダカテロール |
C.吸入ステロイド(ICS)/長時間作用性β2刺激薬(LABA)配合薬
「喘息を合併したCOPD患者(ACOS)」は、高齢者に多いといわれます。この患者に対して、特に推奨されます。増悪の抑制や呼吸機能低下抑制効果が確認されていますが、肺炎のリスクが上昇する可能性があるため注意が必要です。
吸入ステロイド(ICS)の副作用として、「声のかすれ(嗄声:させい)、口腔カンジダ症など」があります。予防するためにも、吸入後は必ずうがいをしましょう。
D.テオフィリン製剤
気管支拡張作用や呼吸筋力の増強効果があるため、COPD患者への使用が勧められます。注意点としては、「中毒域(薬の量が多く危険な副作用があらわれる状態)と治療域(薬の量が適切で治療効果のある状態)が近いこと」があげられます。つまり、服用する量がちょっとでも多いと副作用がでるなど、コントロールが難しい薬なのです。
副作用としては、吐き気などの消化器症状がありますが、これは治療域でも起こることがあります。中毒域では、吐き気だけでなく、頭痛、不眠、頻脈、痙攣、不整脈などの重篤な症状が起こる危険があります。高齢者は代謝が低下しており、からだの中に薬がとどまりやすい特徴があります。血中濃度を測定しながら使用することが推奨されます。
E.その他の薬
マクロライド系の抗菌薬(クラリスロマイシンなど)が使用されることがあります。COPDの患者において、好中球性起動炎症を抑える効果、気道分泌抑制効果が確認されています。このため、COPD急性増悪の予防薬として使用されますが、不整脈の副作用や薬物間相互作用(薬の飲みわせ)に注意が必要です。
特に慎重な投与を要する薬物のリスト:全身性ステロイド薬
対象:慢性安定期のCOPD患者
代表的な商品名 | 一般名称 | 備考 |
---|---|---|
プレドニン | プレドニゾロン |
呼吸筋の筋力や機能を低下させる。消化性潰瘍の発生を高める危険がある。 |
メドロール | メチルプレドニゾロン | |
リンデロン | ベタメタゾン |
特に慎重な投与を要する薬物のリスト:非選択的β遮断薬
対象:COPD、喘息患者
代表的な商品名 | 一般名称 | 備考 |
---|---|---|
インデラル | プロプラノロール | 気管支の攣縮や徐脈の危険がある。 |
ミケラン | カルテオロール |
開始を考慮するべき薬物のリスト:ACE阻害薬(一部を紹介)
対象:心不全、誤嚥性肺炎ハイリスクの高血圧(脳血管障害と肺炎の既往を有する高血圧)
代表的な商品名 | 一般名称 | 備考 |
---|---|---|
レニベース | エナラプリル | 注意事項として、高カリウム血症、空咳がある。 |
カプトリル | カプトプリル | |
タナトリル | イミダプリル | |
インヒベース | シラザプリル | |
アデカット | デラプリル | |
ゼストリル/ロンゲス | リシノプリル | |
コナン | キナプリル |
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参考:日本老年医学会
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015
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