医薬分業と薬局バッシング・報道の真相

2015年4月現在、テレビ局、新聞等の大手メディアによる医薬分業への批判が続いています。そして、多くの国民も医薬分業に反対をし「院内処方」を支持している状況です。それは、医薬分業での「患者さんのメリット」は見えづらく、目先のデメリットが目に付きやすいためです。そして、こんなにも医薬分業への批判が続いている背景には、「診療報酬」というお金の奪い合いがあるといわれています。

 

みなさんが必要なのは「薬なのか?」「健康なのか?」を前提として、医薬分業、院外処方について考えることは非常に大切です。

 

 

【医薬分業と報道の真相】
医師・歯科医師が患者さんの診断・治療をおこなった後、処方箋(しょほうせん)を発行(院外処方)します。発行された処方箋にもとづいて薬局の薬剤師が調剤や薬歴管理、服薬指導を行い、それぞれの専門性を発揮して医療の質の向上を図ろうとするものです。院内処方とは、医薬分業を行わず、病院の中で薬をもらう仕組みです。薬剤師以外に、医師歯科医師獣医師は、自らの処方せんによる場合のみ調剤を行うことができます。

 

Yahoo!ニュースの意識調査「院内処方と院外処方、どちらがいいと思う?」では、4月29日現在で、172,195票が投票されており、「院内処方がいい」が127,824票(74.2%)、「院外処方がいい」が44,371票(25.8%)という結果が出ています。そのなかに以下のような意見があります。

「院内処方」派と「院外処方」派の意見

「院内処方」派の意見
①30年間院内薬局で当院はやってきました。毎晩遅くまで薬局で在庫確認などしますが、手間賃など全く点数に加算されません。その分患者さんは安い支払いですむのです。院外薬局は院内からみれば、言葉は悪いですが、ぼったくりのような感じです。院内は点数が低く、院外ほど職員も雇えません。その分患者さんは支払が安くて済むのです。

 

②完全に2度手間で、本当に体の具合が悪い時は耐え難い苦痛だ。それに、個人情報を院外にさらされる。

 

③どこの調剤薬局に行ってくださいって、薬局を指定してはいけない割には、隣接の薬局以外にはその薬が置いてなかったりした事があって、意味が分からなかった。結局、製薬会社の金儲けの為なのかなと思った。院内処方の方が多少時間がかかっても楽。

 

上記に対する意見
①薬局での在庫確認にも点数加算はありません。つまり、「患者さんの支払いが安くすむ」ということには、つながりません。ぼったくりというのはこの投稿者の主観であり、どれくらいの金額であればぼったくりと言われないのでしょうか。実際、薬局では、薬剤服用歴管理指導料(約40円~120円)などの病院ではかからない点数がかかります。しかし、薬剤師が薬を確認することで重複投与防止副作用の早期発見・防止を行うことができ、長期的にみると支払いが安くなる場合があります。

 

②移動することが苦痛であることは、そのとおりかもしれません。しかし、は体調を改善させるためでなく、病気の予防に使われる場合も多く、院外処方での薬剤師の役割は大きなメリットがあります。
また、罰則もさることながら、医療機関で取り扱う個人情報は特に厳しい管理を要求されるものであり、管理は徹底されています。万一漏洩が起きた場合、損害賠償などの罰則に処せられます。

 

③薬局への誘導は禁止されています。そのような医療機関・薬局は一部でしかありませんし、今後そのような事態はなくなります。院内処方の場合、医療機関で決められた薬が処方されるため、治療が限られる場合があります。しかし、院外処方では、医師が処方したい薬を自由に選択でき、幅広い治療が可能です。その分、すぐに薬の手配ができないというデメリットがあることも事実ですが、事前に電話で確認するなどで解決することも可能です。

 

また、院内処方では採用医薬品が限られているため、かぶれる(肌に合わない)シップを続けている患者さんの話を聞きました。その方は、シップがかぶれると貼るのを休み、かぶれが改善したら湿布を貼ると言われていました。看護師さんにそのことを伝えても、シップの種類が変わることはなく医師には恐縮して言えないと話していました。医師にしっかりと伝え、「別の湿布を使えばかぶれが起こらない可能性があること」を伝えると喜ばれていました。

 

「院外処方」派の意見
①院内処方が良い方は薬局(薬剤師)を選ぶ権利とジェネリックを選ぶ権利を放棄することになります。どんなに高い薬でも病院にある在庫のものしか薬をもらえなくなる。院外ならジェネリックにするかどうするかは薬局で選べます。手数料取られても病院より安い場合もあります。選ぶ権利を捨てないほうがいいと思います。

 

②院内処方はじっくりと薬剤師との会話ができない。院外だと限度はあるが薬の処方について話が聞ける

 

③医師の処方ミスも少なくない。やはり、疑義照会は必要。病院の数分診察では見抜けない患者の不利益も、院外薬局なら見抜けることも多い。診察は医師、薬は薬剤師が基本でしょう

 

上記に対する意見
①院内処方では、医療機関の採用する医薬品が限られることでの意見です。先述のとおり、院内処方の場合、医療機関で決められた薬が処方されるため、治療が限られる場合があります。

 

かかりつけの薬局を持つことで、薬の話だけでなく健康相談なども可能です。

 

③疑義照会は処方全体の約3%とも言われ、医師と薬剤師がそれぞれの役割を全うすることが大切です。

 

 

薬局や薬剤師に関する制度は、専門的であり、これまで国民の関心が低いまま設計されてきました。その結果、一般用医薬品・調剤・健康食品いずれの分野においても、先進国でトップクラスの経済活動優先・国民保護軽視の制度となっています。これは、大きな問題ですが、この危険性についてメディアはほとんど報道していません。大手メディアには、広告収入の関係からか、新自由主義的な規制緩和については歓迎を評するものの、社会民主主義的な緩和について興味を示さない傾向があるといわれます。医療は、メディアの利益のためにあるのではなく、患者さんのためであることを軽視すべきではありません。

 

メディアの成熟と、正しい医療知識が多くの国民に伝わることを願います。

診療報酬改定と医薬分業

診療報酬とは、医療保険から病院などの医療機関に支払われる治療費(報酬)をさします。診察や手術など様々な医療行為ごとに国によって決められており、2年ごとに改定されます。診療報酬は以下の流れで決定されます。まず、政府が予算編成に合わせて診療報酬の改定率を決め、診療報酬全体の財源を決めます。そして、厚生労働省は診療報酬の改定を、医療の専門家である中央社会保険医療協議会(中医協)に諮問します。そして、中医協は、財源の範囲内で診療報酬の分配について協議をおこないます。その内容は、厚生労働省へ答申され、診療報酬が決定されます。

 

現在の、この仕組みは問題があります。つまり、財源が決まっているため、医師・歯科医師・薬剤師・看護師などの医療職能団体は、自分たちの職を守るために診療報酬の分配(奪い合い)をせざるを得ないためです。

 

今回の医薬分業、薬局バッシングの報道は、まさにこの診療報酬改定のためにプロパガンダ(政治的な情報戦・宣伝戦)だといわれています。水面下での交渉や、政治力による方向付けは不適切です。医療者がそれぞれの職能を発揮し、互いを尊重する制度が設計されることを願います。

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