Sicilian Gambitの基本概念

CASTの結果が発表され、抗不整脈薬の使用そのものについて混乱を招きました。また、Naチャネル遮断作用での伝導抑制が催不整脈作用を引き起こすことも明らかになり、そこで「不応期」をターゲットにして、再分極過程を延ばすKチャネル遮断薬に目が向き、Kチャネル遮断を主体としたマルチチャネルブロッカーのアミオダロンの誕生となりました。

 

アミオダロンの有効性が評価され、低心機能の症例でも有効な薬と言われています。しかし、このKチャネル遮断薬も、洞調律時に著明なQT延長を起し、心室頻拍の可能性も明らかになっています。

 

Sicilianの第3回の会議では、薬剤の選択が難しいことをふまえて、不整脈の発生をもたらす病態そのものの進行を抑える治療戦略の提案になりました。例えば、心筋梗塞であれば、その梗塞巣の拡大を阻止し線維化の増大を抑え、慢性期の致死的心室性不整脈の発生を予防しようと。早期の血行再建術やβ-遮断薬、ACE阻害薬、ARBなどの使用が言われるようになりました。

Sicilian Gambitの考え方と分類

不整脈を治療する薬には、Vaughan-Williams(ヴォーン・ウィリアムズ)分類とSicilian Gambit(シシリアン・ギャンビット)分類があります。この分類を理解して応用するのはとても難しく、理解せよと言われても大変です。一応、どのように分類されているのか簡単に書いておきます。

 

Sicilian Gambitの考え方と分類(山下武志先生のご意見)
『Vaughan-Williamsの分類もSicilian Gambitの分類も専門家が専門家の為につくった分類である。つまるところ、抗不整脈薬の薬理作用を考えると言うことは電気生理学を知ることだ。

 

Vaughan-Williamsの分類では、活動電位に対する薬効は、2つの要因、つまり「立ち上がり速度に対する影響と持続時間に対する影響」を考えればよかった。しかし、活動電位を形成しているイオンチャンネル、ポンプ(交換系)、受容体はきわめて多い。その活動電位のみに頼るVaughan-Williamsの分類には限界があった。

 

それぞれの薬効を活動電位に対する効果ではなく、チャネルやポンプ、受容体などの蛋白(タンパク)分子に対する作用で分類した方が妥当ではないかと考えられた。それに重点を置いて分類しようとしたのがSicilian Gambitである。しかし、チャネルやポンプなどは多くあり、体系的に分類することは不可能で表にして提示するということにとどまっている。

 

しかし、不整脈の原因となっている蛋白分子をどうやって知るのか?原因となる蛋白分子を抑制すれば本当に治療効果が上がるのか? Sicilian Gambitの分類にもこのように重大な疑義がある。

 

そこで各医師が最良の不整脈治療方法を考えるのにSicilian Gambitを参考にしてもらいたい、その使い方は利用者に任せる。不整脈の原因、機序を推定し、さらに薬理作用を摺り合わせていくことは高等な作業である。だからこそ“面白い、やりがいがある”そう考えて欲しい。』

 

抗不整脈薬では、Naチャネルの抑制薬が主流であり、それはチャネルの活性化状態(活動電位の立ち上がり)、または不活性化状態(プラトー相)で結合して抑制作用を発揮し、静止状態(拡張期)でチャネルの結合部から離れるものが多いのです。

 

活性化状態で親和性の薬は、興奮ごとに結合するので心室・心房ともに有効です。一方、不活性化状態で親和性の薬は、プラトー相の短い心房では心室に比べ効きにくいのです。このことから、薬は結合・解離速度の“速い”“中間”“遅い”に分類されます。

 

速い(fast drug)
1秒以内にNaチャネルから乖離する薬です。通常、心臓の拡張期の間に、薬はほぼ完全にチャネルから離れます。このため、連結期(静止期)の長い期外収縮(プラトー相の短い)や比較的頻度の少ない異所性頻脈には抑制効果は発揮しにくいのです。連結期の短い期外収縮や高頻度の異所性頻脈には抑制効果が期待できます。副作用も少ない代わりに切れ味が劣ります。

 

中間・遅い(Med、Slow drug)
これらの薬は、拡張期になってもチャネルからの離れるのが遅く、チャネルの中に10秒前後とどまっていて、比較的低頻度の異所性頻脈や連結期(静止期)の長い期外収縮にも効果が期待できます。

 

ただし、正常の興奮伝導に対しても抑制作用があらわれ、心電図のQRS幅の延長や伝導障害をおこす可能性も高いのです。また、薬がからだの中に蓄積しやすく、効果は強く、頻脈・徐脈どちらでも抑制作用を示します。作用は強いのですが、催不整脈作用(新たな不整脈)も出やすいので注意が必要です。

 

心筋の状態、また他の合併症を考慮して、上記の「速い・中間・遅い」のどれが妥当か、また「標的」となるチャネル、受容体を考えての選択が必要となります。

 

Naチャネル遮断薬の多様性(薬はすべて一般名称

使用依存性抑制

(use-dependent block)

活動電位持続時間(APD)

短 縮(b)

不 変(c)

延 長(a)

fast

リドカイン(I)
メキシレチン(I)

   
intermediate アプリンジン(I) プロパフェノン(A,I)

キニジン(A)
プロカインアミド(A)

slow  

フレカイニド(A)
シベンゾリン(A)
ピルジカイニド(A)

ジソピラミド(A)
ピルメノール(A)

I:不活性化チャネルブロック,A:活性化チャネルブロック
出典:不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009年改訂版)

 

 

続いて、簡略版 Sicilian Gambitの分類

 

 

【薬剤師じゃなくても薬がわかる本】

 

 

 

 

 

 


関連ページ



Sponsored Link
Sponsored Link