高齢者の排尿障害(過活動膀胱)と薬

​高齢者は、薬による有害事象の頻度が高く、重症例が多いといわれます。薬物療法の安全性を高めるために、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015:日本老年医学会」が作成されています。その中から、特に注意するべき内容をまとめました。

 

お願い:薬を急に中止することは危険です。気になる内容がありましたら、かかりつけ医・かかりつけ薬剤師にご相談ください。

排尿障害の薬に関する注意点
①高齢者の過活動膀胱に対して、ムスカリン受容体拮抗薬(※)が有効である。75歳を超えた高齢者への投与でも、有効性、安全性ともに75歳未満と同等である。副作用として「口内乾燥、便秘、霧視、残尿量の増加など」に注意が必要である。

 

②ムスカリン受容体拮抗薬の副作用は、用量(服用量)が増えるほど増加する。このため、膀胱選択性の高い(他の臓器に作用しづらい)薬剤や、投与経路の変更(内服から貼付薬に変更するなど)で副作用の軽減に期待ができる。

 

③ムスカリン受容体拮抗薬は、中枢神経系の副作用を及ぼす可能性がある。経口オキシブチニンは、認知機能を低下させる可能性があり、高齢者には可能な限り使用を控える。

 

①日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:高
②日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:高
③日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:高

 

ムスカリン受容体拮抗薬

商品名 一般名称
ベシケア ソリフェナシン
バップフォー プロピベリン
ウリトス/ステーブラ イミダフェナシン
デトルシトール トルテロジン
トビエース フェソテロジン
ポラキス(経口薬)/ネオキシテープ(貼付薬) オキシブチニン

抗コリン薬のうち、尿路に作用するものを「ムスカリン受容体拮抗薬」と記載しています。

 

過活動膀胱(overactive bladder: OAB)の有病率は年齢とともに増加し、60歳以上で13.8%に上ると報告されています。高齢者において、ムスカリン受容体拮抗薬は安全で有効であるという報告があります。

 

しかし、高齢者はコリン分泌能が低下しており、コリン関係の副作用(口内乾燥、便秘、霧視、残尿量の増加など)が出やすいです。さらに、緑内障、前立腺肥大、尿路感染、尿路結石などにも注意が必要です。

 

過活動膀胱診療ガイドラインには、薬物療法以外にも「定時排尿、排尿誘導あるいは排尿動作の補助などの治療を行うべきである」と記載されています。

 

ムスカリン受容体拮抗薬を使用する場合、「脳内への移行が少ない薬剤」を少量から開始することで、副作用の頻度軽減に期待ができます。

 

経口オキシブチニン(商品名:ポラキス錠)は、副作用の発現率が高く、認知機能低下のリスクが否定できないため可能な限り使用を控えるべきです。一方、オキシブチニンの貼付剤(商品名:ネオキシテープ)では、口内乾燥や便秘などの有害事象が減少したという報告があります。内服薬が多い方、経口での服薬が困難な方には、貼付剤が有効かもしれません。

 

また、抗コリン薬を服用している方は、服用していない方に比べて、何らかの認知機能障害を有している割合が高いといわれます。さらに、3年以上抗コリン薬を服用した場合では、認知症のリスクが増加します。

 

「膀胱選択性の高いムスカリン受容体拮抗薬」を長期に服用した場合、認知機能への影響は明らかではありません。

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参考:日本老年医学会
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015
(Amazonにリンク)
より詳しい情報知りたい方は、書籍の購入をオススメします。



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