疑義照会とポリファーマシー

医師から医師への疑義照会
株式会社QLifeが2015年に行った「医師から医師への疑義照会」の実態調査報告(インターネット調査)は次の通りです。

「他院の処方内容を見て明らかにおかしいと思ったことがある」と回答した医師は74.4%でした。そのうち、「処方医に対して疑義照会・意見・相談をしているか」という問いに「全くしていない」と回答した医師が75.8%でありました。つまり、多くの医師が「明らかにこの処方はおかしい」と思っているのに、そのおかしな処方を出している医師に対して何らかのアクションを起こす医師はわずかだということです。

 

1人の患者に複数人の医師が関わる状況
薬を処方する医師が増えるほど、薬剤有害事象が増えるという報告があります。実際に、「慢性閉塞性肺疾患、2型糖尿病、骨粗しょう症、高血圧症、変形性関節症のある79歳女性」を、各種診療ガイドラインの推奨に基づき治療すると、12種類の薬剤に加えて複雑な非薬物療法のメニューが必要になったという指摘もあります。

 

複数の疾患を持っており複数の診療科を受診している場合、複数人の主治医がいることになります。それぞれの主治医が、その専門領域の中でベストの治療をしています。しかし、個々の治療がベストであっても、全体としては最適を損なうことがあり得るのです。

 

現在、この状況を打破するための手立ては、これといった明確なものがありません。しかし、薬の飲み忘れ、体調の悪化、入院などの出来事をきっかけに、処方医が減る(まとまる)ことがあります。

 

その時に、漫然と治療を受けているものはないか、患者さんの全ての治療薬(健康食品なども含む)を評価し、可能なものは専門家と連携を取りながら、集約していくことが重要でしょう。ここには、医師と薬剤師の連携も必要だと言われます。

 

薬剤師から医師への疑義照会
薬剤師は、医師の処方に「疑わしい点(気になる点)」があった場合、疑義照会をしなければなりません。そして、その疑義が解消しなければ、調剤行為を行ってはならないと法律として定義されています。

 

薬剤師は,処方せん中に疑わしい点があるときは,その処方せんを交付した医師,歯科医師又は獣医師に問い合わせて,その疑わしい点を確かめた後で なければ,これによつて調剤してはならない。 (薬剤師法第24条)

 

この疑義照会は、ポリファーマシーを解決する重要な契機となります。

 

疑義照会の例

項目 内容
①薬物療法の妥当性 薬のリスクが、ベネフィットを上回ると推察されることがあります。 HbA1c6.0の高齢者に、SU薬が漫然と投与されているなど
②患者要因(希望) 患者は、診察の際に「希望を言えない」ことがあります。 今回14日分の処方だが、本当は21日分処方して欲しかったなど
③保険的な問題 添付文書に書かれている「用法・用量」から逸脱していたり、禁忌に該当していることがあります。 胃潰瘍の患者に消炎鎮痛剤が処方されているなど
④処方箋の不備 用法・用量や薬の規格(◯mg)など、処方箋に記載するべき情報が漏れていることがあります。 湿布の使用部位が記載されていないなど

 

③保険的な問題、④処方箋の不備の疑義照会は、処方箋を見ただけでわかる「明確な疑義」です。②患者要因(希望)は、患者の希望を無視しない限り、行うべき「明確な疑義」といえます。このように、②から④の疑義照会は、薬剤師にとって行いやすい疑義照会です。

 

一方、①薬物療法の妥当性の疑義照会は、薬学的知見に基づく判断が必要である「曖昧な疑義」といえます。薬物療法が妥当かどうかの明確な基準がないものが多く、疑義照会を行うべきかの判断に迷うことがあります。

 

例えば、クロピドグレル硫酸塩(商品名:プラビックス)は、レパグリニド(商品名:シュアポスト)と併用した場合、レパグリニドの血中濃度が高くなります。レパグリニドの血中濃度が高くなることで、血糖降下作用が強くなり、低血糖を起こす危険がでてきます。

 

ここで、低血糖を起こす危険性は患者ごとに異なるため、その程度を明確に切り分けることはできません。つまり、薬剤師は、患者ごと(個別)の状況、そこに関わる様々な情報を、多面的に評価しなければなりません。

 

この際に、ビアーズ基準STOPPクライテリア、STARTクライテリア高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015、臨床医学に関する研究論文などを用いると良いでしょう。

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