インフルエンザのワクチンの本当の意味
インフルエンザワクチンは、「接種すればインフルエンザに絶対にかからない」というものではありません。
しかし、ある程度の発病を阻止する効果があり、たとえかかっても症状が重くなることを阻止する効果があります。
ワクチンの接種によって、
「A型の発症防止効果が
▶1~2歳=72%
▶3~5歳=73%
▶6~12歳=58%
A型の中で09年に世界的流行をしたH1N1型は
▶1~2歳=67%
▶3~5歳=84%
▶6~12歳=90%
と一定の効果があった。(出典:毎日新聞 2015年8月30日)」とのデータもあります。
しかし、あるまとめサイトには、以下のような記事が書かれております。
インフルエンザワクチンは打たないで! 【常識はウソだらけ】
「インフルエンザが流行しているらしいからワクチンを打たなくちゃ」と考えていらっしゃる方が多いと思います。小さなお子さんのいるお母さん、ご高齢の親を持つ方たちも同じでしょう。そのどなたも「あのワクチンは効く」と思っているはず。じつはインフルエンザ・ワクチンはほとんど効きません。更新日: 2015年1月16日
私は、この記事を安易に解釈していただきたくありません。「ほとんど効きません。」とは、どのようなことを指すのでしょうか。一般の方が、この文言をみると「インフルエンザワクチンは打たなくていいのだと考えてしまうのではないでしょうか。もし、この記事により「ワクチンを打たず死亡する人」が出てきた場合、誰が責任をとってくれるのでしょう…おそらく、自己責任と言われるのではないでしょうか。
インフルエンザワクチンを否定する趣旨の文章は、分かりやすく書いてあります。はっきりと「~は嘘」「絶対に~してはいけない」「~は常識」と説明しているためです。しかし、そのこんきょである出典を見てみると、数十年前の発言だったり、現在では否定されている内容だったりするのです。
医療情報は、時代とともに変化するものです。また、データの集め方や間違った解釈によって、全く違う結果が出ることもあります。「ワクチンを打たないで!」このように発言することは、注目を集めることができるでしょうし、表現の自由だと言われるかもしれません。
しかし、インフルエンザの予防接種によって救うことができる命があります。間違った知識で苦しむ方を少しでもなくすために「インフルエンザのワクチン接種の本当の意味」と「なぜワクチンを接種してもインフルエンザの症状がでるのか」について、わかりやすく解説いたします。
インフルエンザウイルスとは?
インフルエンザウイルスは、大きく「A型」「B型」「C型」に分類されます。また、インフルエンザウイルスの表面には、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の二種類のスパイクタンパクがあり、ウイルスが感染を起こすための大切な役割を果たしています。
ウイルス型 | 特徴 | 感染 | 主な症状 |
---|---|---|---|
A型 | HAには16種類(H1~H16)、NAには9種類(N1~N9)あり、144種類(16×9)の亜型が存在する。鳥インフルエンザもこのA型に分類される。基本的に、薬での治療が可能。 | 人や鳥、豚、馬など多くの動物に感染する。感染力も強く、世界的な大流行を起こす危険がある。12月から1月に流行する場合が多い。 | 高熱、喉の痛み、鼻づまり、呼吸器系の合併症を起こす危険性もある。 |
B型 | HA、NAともに1種類(1×1)しか存在しない。ワクチンは、薬での治療が可能。 | 人から人にのみ感染する。2月から3月に流行する場合が多い。 | 腹痛や下痢といった消化器系に影響が出やすい。 |
C型 | HA、NAともに存在せず、現在(2015年)発売されている薬で治療することができない。※1 | ほとんどの人が幼児の際に感染する。季節に関係なく感染する。 | 鼻水が多く分泌されるが、感染しても症状がほとんど出ない。 |
※1 2015年1月現在、タミフル(経口:カプセル)、リレンザ(吸入:粉末)、イナビル(吸入:粉末)、ラピアクタ(点滴)の薬(商品名)が主に使用されていますが、これらの薬はノイラミニダーゼ(NA)の働きを阻害しウイルスの増殖を抑えます。つまり、NAの存在しないC型インフルエンザには効果がありません。
インフルエンザに感染するとは?
インフルエンザウイルスが口や鼻から体の中に入ることから、インフルエンザの感染がはじまります。体の中に入ったウイルスはウイルス表面のヘマグルチニン(HA)を「手」として細胞をつかみ、その中に侵入して増殖します。この状態を「感染」といいます。1つのウイルスが感染すると8時間後には100個に増殖し、16時間後には1万個に、24時間後には100万個にまで増加します。※2
ウイルスが増えると、数日の潜伏期間を経て、発熱やのどの痛み等のインフルエンザの症状が起こります。この状態を「発症」といいます。ワクチンには、この発症を抑える効果が一定程度認められています。(この一定程度とは、色々な研究がありますが、70~90%抑えたというデータもあるようです。)
インフルエンザ発症後、多くの方は1週間程度で回復しますが、中には肺炎や脳症等の重い合併症が現れ、入院治療を必要とする方や死亡される方もいます。これをインフルエンザの「重症化」といいます。特に基礎疾患のある方やご高齢の方では重症化する可能性が高いと考えられています。インフルエンザのワクチン接種の本当の意味が、この重症化を予防する効果を期待することです。
※2 主に使用されている薬は、ウイルスの増殖を抑えます。早め(48時間以内)に薬を使用することで、インフルエンザの症状の悪化を抑えたり、完治するまでの期間を短縮させることができます。
なぜワクチンを接種してもインフルエンザの症状がでるのか?
インフルエンザのワクチン接種をしたのに、インフルエンザにかかってしまったという方が、今年(2015年)は多くいらっしゃいます。ワクチンを接種したのに、インフルエンザを発症するなんて「ワクチンの意味がない!」と思われるかもしれません。
ワクチンを接種してもインフルエンザにかかってしまう要因としては、一般的に次の3点が考えられます。
- 冬に流行るインフルエンザを夏ごろ予測しているため、予想が外れる場合がある
- ワクチンの製造過程でウイルスが変異し、無効となる場合がある
- からだの中で抗体ができる際に、抗体ができない人がいるなどの個人差がある
しかし、ワクチンを打ってもインフルエンザにかかってしまう最大の要因は、これらではありません。実は、ワクチン接種と生体防御(免疫)が大きく関わっているのです。
インフルエンザワクチンと生体防御(免疫)
インフルエンザワクチンは、不活化ワクチンという分類で、皮下(皮膚の下)に注射をします。ワクチンが注射されると、からだはIgG抗体を産生します。このIgG抗体は血液中に最も多く、インフルエンザウイルスからからだを守るよう働きます。
しかし、インフルエンザの感染のはじまりである口や鼻などの粘膜では、IgG抗体がしっかりと働いてくれません。これは粘膜で働く主な抗体がIgA抗体であるためです。また、インフルエンザ予防の不活化ワクチン(注射薬)では、からだが十分なIgA抗体を産生できないと言われています。海外で使用されている生ワクチン(点鼻)であれば、粘膜にIgA抗体がいる状態をつくることができます。
粘膜などでIgA抗体が働かなければ、鼻や口や上気道でインフルエンザウイルスが悪さをし、熱や咳などの症状が起こってしまいます。よって、「インフルエンザワクチンがほとんど効かない」という意見が出てくることは当然なのです。
2015年2月現在、からだに十分量のIgAを産生させるためには、一度インフルエンザにかかるしか方法はありません。一度インフルエンザにかかれば、IgA抗体が作られていますので、インフルエンザのウイルスの多くは粘膜上で撃退されます。しかし、最も大切なことは「ワクチンが効く、効かないということ」ではありません。
インフルエンザワクチンの最大の目的
ワクチン接種の一番の目的は、「重症化防止」です。例年のインフルエンザの感染者数は、国内で約1,000万人と言われています。そのうち、インフルエンザによる死亡数は214~1,818人です。(2001~2005年)
また、直接的及び間接的にインフルエンザの流行によって生じた死亡を推計する超過死亡概念というものがあり、この推計によりインフルエンザによる年間死亡者数は、世界で約25~50万人、日本で約1万人と推計されています。ワクチン接種で産生されるIgG抗体は、侵入してきたウイルスの感染をすべて防御することは稀ですが、ウイルス増殖の拡大を抑制することによって重症化阻止に働きます。
基本的に、インフルエンザウイルスは気道周辺で悪さをし、発熱やのどの痛み等の症状を起こします。しかし、重症化するとインフルエンザウイルスが血管を通り全身で悪さをし、肺炎や脳炎を起こしてしまいます。インフルエンザワクチンを接種していれば、血液中にはIgG抗体がありますので、この重症化を防いでくれます。研究によると、入院や肺炎、死亡などを30~70%抑えたというデータもあるようです。
つまり、インフルエンザにかかっても、症状が重くなることを阻止し、重症化や死亡しないよう「予防すること」が非常に大切です。これこそが、インフルエンザワクチンを接種する最大の目的なのです。
「インフルエンザワクチンは打たないで」という文章で、本当にワクチンが必要である「高齢者」や「妊婦」の方はどう行動したでしょうか。中には、ワクチンを打つことを止め、インフルエンザの重症化が起こってしまったかもしれません。誤った情報は、人の命を脅かすことすらあるのです。正しい情報を知り、大切な家族や友人を守りましょう。
インフルエンザに関する記事の紹介
上部の毎日新聞の記事詳細解説はこちらが上手くまとまっています。(外部サイト)
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