心房細胞・心室細胞の収縮(興奮)を考える その2
洞房結節の興奮は、心房そして房室結節の細胞へ電気刺激として伝わります。この刺激が同じようにヒス束、脚、心室細胞へと伝わり、心臓は強い収縮を起こします。
出典 「生理学テキスト」
心室細胞の興奮は、心房細胞の仕組みとほぼ同じです。心室細胞は、プルキンエ線維からギャップジャンクションを通して刺激を受け、興奮し収縮します。ただ、心室は副交感神経の関与がなく、アセチルコリンの影響を受けません。つまり、心房に比べて活動期が長いという特徴があります。
プルキンエ線維なども同じような仕組みで脱分極します。この部位には、心臓の収縮に関係するタンパク質がありません。つまり、細胞の収縮には関係せず、電気刺激の伝導を主に担当します。
細胞の興奮(収縮)の収束
細胞からKイオンが少しずつ出ていき、電位差が約-40mVになると、細胞の興奮(収縮)が終わってもいいという状態となります。このとき、Kチャネル(遅延型整流K電流の一種)が開き、Kイオンは勢いよく細胞の外に出るのです。そして、遊離Caイオンが少なくなったところで、細胞の収縮は終わります。
ここまでの経緯が、PQRSTで表される波として、心電図上に出現します。
簡単なまとめ
Naイオンが電位を上げ(細胞の興奮、刺激の伝導)、Caイオンが持続させ(収縮、刺激の伝導)、Kイオンが電位を調節し細胞の収縮を終わらせるのです。また、Naイオンの流入は一瞬で、Caイオンの流入(プラトー相)はゆっくりです。このプラトー相の間に、心筋は強く収縮しています。これらイオンの出入りは、ゼロコンマ数秒の間に起こります。
ジギタリスと心臓
ジギタリスとは、ごまのはぐさ科の多年生植物です。心不全治療薬として使われることも多くあります。このジギタリスは、先述のとおり、Na-Kポンプを抑制します。そのため、細胞外にNaイオンが出られない状態となり、Na/Ca交換系が働きます。そして、Naイオンを外にCaイオンを内に入れ、細胞内にCaイオン濃度が増え強心作用があらわれるのです。
出典:心不全と治療薬 - 役に立つ薬の情報~専門薬学
また、Na-Kポンプの抑制をしても、Naイオンの細胞内と細胞外の濃度勾配ができない場合にはNa/Ca交換系は動きません。そのため、細胞内にCaイオンが残った状態となり、Caイオンは筋小胞体に過剰に取り込まれ、次の脱分極時に強い収縮が起こることも考えられます。
筋小胞体の中にCaイオンが多いと心筋細胞の緊張状態がつづき、わずかな刺激(交感神経の興奮など)でも、筋小胞体からのCaイオンの遊離が起こり、予想外の心筋細胞の興奮(トリガード アクティビティ…強力な不整脈)が生じる場合があります。
つまり、ジギタリスの作用は、どの程度Na-Kポンプを抑制するかによって心筋細胞の分極、脱分極に微妙に影響を与えると考えられます。
もう一つ知っておく必要があるのは、ジギタリスは心筋の自動性を低下させることです。これは迷走神経の緊張増加と交感神経の活動性の低下作用によると言われています。それは、房室結節の不応期の延長や伝導速度を低下させるのです。この作用を利用して心房細動などのレートコントロールに使われます。しかし、ジギタリスが多過ぎる状態(高濃度)では、房室伝導を遅らせたり、洞ブロックを起こす可能性もあります。
つまり、使い方いかんでは不整脈の原因になります。ジギタリスの使用は難しく、血液中の濃度を測定しながら薬物治療をする必要があるのです。
心臓がどうやって動くか、分ってくれましたか?
でもね、いつも同じように動くのは 難しんだよ!
多くの細胞が歩調を合わせないとならないのだから・・。
時には、心房の収縮と心室の拡張がうまくかみ合わないこともあるのだよ。
続いて、心室の収縮の仕方
関連ページ
第5章 心臓の動きを理解するために
▶心臓が自動的に動く出発点(洞結節)
▶心房細胞・心室細胞の収縮(興奮)を考える その1
▶心室の収縮の仕方
▶心臓の動きの見張り番
▶心臓を動かすイオンと電流
▶絶対不応期と相対不応期