動く心臓をつくるためには
心臓という袋は、なぜ勝手に動くのか考えたことがありますか?心臓が動くためには、環境・役者・道具が必要です。また、生き物は進化の過程で、全身に血液を送るための「何か」をつくらなければなりませんでした。
心臓を構成している細胞
心臓の細胞には、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)のイオンが存在します。通常(静止状態)では、Naイオンは細胞外が内の約30倍、Caイオンは10,000倍、Kイオンだけは逆に細胞内が外の30~40倍と多いのです。
この電解質(イオン)が動き、濃度差ができることよって、電位差がつくりだされます。電位差があることは、濃淡電池のように電気刺激をつくり出すことができる状態です。心臓は電気刺激によって動きますので、この状態が「心臓が動くための基本」となります。
心臓血管研究所の山下武志先生の説明に目を向けてみてください。
「そもそも生体は海に生息し、やがて陸に上がってきたとの説があるように、細胞外に豊富に存在する電解質はNaイオンである。細胞内外の環境に電気的な差をつくろうとすると、Naイオンが(細胞)膜を通過できないようにしておいて、他方で細胞内Naイオンを細胞外にくみ出してみよう。」
つまり、図の状態から電解質(Naイオン)を動かし、電位差(心臓が動く電気刺激のもと)をつくり出そうとします。
「ここで困ったことにNaイオンという陽イオンを細胞外へ出すことだけに専念すると、細胞内の陽イオンは無くなってしまう。そこでNaイオンをくみ出す代わりに、細胞外に比較的少ないKイオンを細胞内に取り込むようにしておこう。」
つまり、Naイオンを無理やり細胞外へ出そうとすると、細胞の電荷(プラスとマイナス)のバランスが悪くなるので、陽イオン(プラス)であるKイオンを細胞の中に取り込みます。
「このままで持続すると細胞内のNaイオンは無くなり、細胞内のKイオンは異常に増加するだろう。そこで細胞内外のバランスをとるために、細胞膜にKイオンだけが透過できる孔が必要となる。Kイオンが自由に通過できる孔をつくると貯まったKイオンは外に出ようとする。陽イオンが細胞内から外に出ると、細胞内電位はそれだけ低くなる。このKが出る状態は永遠には続かない、どこかの時点で定常状態にとなるだろう。」
つまり、さらにバランスをとるために、Kイオンが細胞の内外を自由に通過できる穴(孔)をつくります。自由に通れると、いずれバランスのとれた状態(定常状態)になると考えられます。
「Kイオンには、出て行こうとする力①、と引き止めようとする力②がかかってくる。その2つの力のバランスがとれたとき、細胞内外へ移動することができなくなる。それが、定常状態であり、静止膜電位(静止状態)と考えたらよいだろう。」
①Kイオンが濃度差に引かれて細胞外へ出ていこうとする力
②細胞内の陰性電位(マイナス)が、陽イオン(プラス)であるKイオンを細胞内へ引き寄せようとする力
図の青色の部分で示されるように、細胞の周りには細胞膜があります。細胞膜を利用して、細胞の内外で電解質(イオン)の濃度差・電位差のある状態がつくられます。それぞれの電解質は、一定の電位になると細胞膜を通過できるようになります。
電解質が細胞膜を通過する際、電流(電気刺激)が生じます。その電流によって、細胞は興奮し収縮できるのです。この電気刺激が各細胞に伝わり心臓は動き、血液を全身へ押しだします。この仕組みこそ、太古の生物の祖先が、進化の過程の中で生み出した機能する貴重な「何か」なのです。
続いて、心臓の動きとNa,K,Caイオン
関連ページ
第3章 “動く心臓”のつくりかた
▶心臓の動きとNa,K,Caイオン
▶心臓の動きと細胞膜を通るポンプ
▶洞結節の細胞を興奮させて伝達する