ゲートキーパー(薬剤師編)

ゲートキーパーの活動には、ファーストエイドの対応法が役立ちます。「Mental Health First Aid」は、オーストラリアで開発された心理的危機に対する援助法です。

 

心理的危機に陥った人に対して、専門家の支援が提供される前に、どのような支援を提供すべきか、どのように行動すべきか、対応法を身につけるプログラムです。このファーストエイドは、「り・は・あ・さ・る」の5つの基本ステップで構成されています。

 

自殺を救うゲートキーパー(一般編)よりも少し高度な内容です。

 

1. り:スク評価で、自傷・他害のリスクを確認する
心理的危機に陥った人に対応する場合、悩みがどのくらい差し迫っているかや、自殺の危険性があるのかを確認します。たとえば、自殺念慮があるか、あった場合には計画性はあるかどうか、いつ頃からそう思うのか、強さはどうかを確認します。

 

また、リスク評価としては、危険因子と防御因子の確認が必要です。加えて、ストレスをアルコールでまぎらわすというような不適切な対処行動の有無や、本人のそばで様子を見守ってくれる人がいるかどうかなどの支援体制についても、あわせて確認します。

 

そして、相談者自身も一緒に問題の解決を目指そうとしているかどうかも確認します。たとえば、「自殺以外に問題を解決する方法がない」とか「生きている意味はない」というように、問題解決に対する否定的な考え方が強い場合には、自殺の危険性は非常に高いと考えられます。

 

「いつ頃からそう思うようになりましたか?」、「どうして死のうと思ったのですか?」、「どうやって死のうか具体的に考えてますか?」などの質問を適切に使い分けます

 

2. は:んだん、批評せずに話を聴く
悩んでいる人は、周囲にこれまでのつらい気持ちや考えを聞いてもらい、共感してもらうことを希望しています。周囲の人がじっくりと話を聞くこと自体が、極めて重要な支援となります。話を聴く行為は悩む人への最大の支援になり、話を聴いてもらうことで安心します。

 

一方的なアドバイスより、悩みをかかえている人の話に耳を傾けることを心がけます。サインに気づいたあとの初期のかかわりが、そのあとの支援全体の成功を左右します。真剣に話を聞き、誠実に対応しようとし、悩む人自身が温かみがあると感じるような対応が重要です。

 

具体的には、温かい声かけ、口調、話し方、言葉使い、雰囲気、安心して話ができる環境など、多岐にわたる配慮が必要となります。「大変でしたね」とか「よくやってこられましたね」と相手の苦労を認めたり、ねぎらいの気持ちを言葉にして伝えることも大切です。

 

やってはいけない例として、相手を一方的に説得したり、「良い」「悪い」と評価を加えたり、安易に励ますこと。加えて、「死にたい」と考える背景に不都合な理由があったとしても、それを解釈したり分析的になることは避けなければなりません。

 

特に、非言語コミュニケーションが相手に与える印象は大きく、特に初期対応の段階では、相手に安心感を与え、相談して良いのだと思わせるような雰囲気をつくることが何よりも重要です。

 

悪い例 「そんなに落ち込んではダメ!」「明るくいかないと!」
良い例 「そうですよね」「辛いですよね」

 

3. あ:悩んでいる人にんしん、情報を与える
アドバイスをする前に安心や情報を与えることが重要です。「何がだめだったのか」ではなく、「これから問題をどのように解決していくか」という視点で相手の話を聴いて一緒に考えることが出発点になります。医療者といえど、医療の全てを知っている方はいません。専門的なことがわからなくても一緒に考えることが大切です。

 

また、必要な情報を適切に提供すると、悩む人自らが問題解決のプロセスに主体的に関わることができます。
医学的な問題や社会的生活上の問題の悩みなら、効果的な治療や問題解決につながる対策があることを伝えます。

 

安心と情報を与えると、悩んでいる人は希望をもてるようになります。このためには、常日頃より地域の関連機関の最新の情報を確認しておく必要があり、リーフレット等のように活用できる媒体は常に揃えておくとよいでしょう。

 

悪い例 「話を聞いてくれるところがあるらしいですよ」 曖昧、適当な情報提供をする
良い例 「話を聞いて相談にのってくれる機関がありますよ」 地域の相談センターがあると明確な情報提供をする

 

4. さ:ポートを得るように勤める、つまり、適切な専門家のもとへ行くよう伝える
ここでは、専門家のところに行くことの有益性を伝えます。医療従事者からのメッセージや問題解決にむけた提案は、悩む人の話を傾聴し、その苦悩や経緯を承認したうえで行います。一方的な提案は「お前に何がわかるのだ」という気持ちを引き出し、絶望感をさらに強めます。

 

伝え方のポイントとして、穏やかな語り口調でゆっくりと、悩む人の反応をみながら伝えていくことが必要です。現状をどう捉え、どうしたら問題解決につながると考えているのか、また、具体的にどのような手段や方法が提案できるのかを丁寧に伝えるとともに、悩む人が提案に対してどう思っているのかを尋ねます。

 

たとえば、調子が悪いときは治療を勧める、ときには専門の病院に行くことを勧めるのもひとつです。また、医療における対応だけでなく、経済的問題や生活上の問題など具体的な問題を解決する窓口へ行くことも勧めます。

 

一方的に勧めるのではなく、一緒に考えた上で提案し、相手の気持ちを踏まえての対応が良いです。そして、家族など本人のキーパーソンとなる人を確認したり、問題解決に携わる地域の実務者につなげていくようにします。地域で活動が可能な限り、活用できる社会資源を活用する、と目標を持つことが大切です。

 

連携にあたっては、連絡先に確実につながることができるように、可能な限り直接連絡を取り、相談の場所、日時等を具体的に設定して、相談者に伝えるような工夫が必要です。

 

また、一緒に出向くことができる場合には、直接的支援を行ったり、それが難しい場合には、地図やパンフレットを渡したり、連絡先へのアクセス(交通手段、経済等)等の情報を提供するなどの間接的支援を行います。

 

良い例 「一度専門の病院で診てもらった方がいいですよ」「一緒に良い方法を考えましょう」

 

5. る:セフヘプ、ですが、自分で対応できる対処法(セルフ・ヘルプ)を勧める
気持ちを和らげるために自分ができる対処法を勧めます。たとえば、とても辛いときはどのように対応したら良いかを伝えることも大切です。「辛くなったら相談してね」とか「無理せずゆっくり休んでね」と勧めるのも良いです。また、その人に合うようなリラックス法などを勧めてみても良いでしょう。

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