薬歴未記載問題から考える

2015年2月10日の朝日新聞一面に、「薬服用歴 17万件未記載」という見出しの記事が掲載されました。

 

関東地方に展開する調剤薬局で、薬剤師が記録することを求められている「薬のカルテ」と呼ばれる薬剤服用歴(薬歴)を記載せずに患者へ薬を出していたことがわかった。2013年3月の内部調査で未記載は約17万件あった。根拠となる資料がないまま、一部で診療報酬を不適切に請求していた疑いがある。(出典 朝日新聞 一部抜粋)

※本来、調剤薬局は保険薬局、診療報酬は調剤報酬と表現されるべきです。

 

また2月22日、別の保険薬局にて「7万8,000件の未記載」の記事が、日本経済新聞等で取り上げられています。

 

これらの問題自体に対して、私は詳しい状況もわかりませんし、非難も擁護もいたしません。しかし、この問題から学ぶことがありました。薬剤師を含め多くの方に知っておいていただきたい、私の思いを以下に残そうと思います。

 

上記の記事が新聞に掲載されて約2週間が経ち、1,000名強の患者さんが薬局にいらっしゃいました。しかし、問題の詳細や私の薬局の状況を聞かれたことは、1度もありませんでした。また、知り合いからは「新聞の記事を読んでもよく分からない」という意見を多く聞かされました。残念ながら、「患者さん含め一般の方は、薬局の役割や機能をあまり知らず、興味もあまりない」ということが事実なのだと思います。

 

まず、「薬歴やカルテがどんなものなのか」イメージがつきにくいことも原因だと思いますが、我々薬剤師は「薬局(薬剤師)が普段何をしているかあまり理解されていないこと」をしっかりと受け止めなければなりません。

 

 

【薬歴とその意義】
薬歴とは「患者さんごとに保険薬局が作成する記録」です。新聞記載の通り、病院での「カルテ」のような位置付けです。薬局の薬剤師は、この記録に基づいて、医師が処方した薬を患者さんにお渡ししても問題がないかの確認を行い(監査)、問題がないと判断した場合のみ薬を患者さんにお渡しします(調剤)。

 

薬歴に書かれている主な情報

「患者さんの氏名や連絡先などの情報」
「服用している薬の情報」
「患者さん自身の体質などの情報」
「薬の効果が現れているかの情報」
「薬の副作用がでていないかの情報」
「薬の飲み残しがないか、きちんと飲めているかの情報」
「ジェネリック医薬品の希望」など、様々な情報を記載します。

 

医師のカルテとは異なり、薬歴を記録すること自体は、薬剤師の義務ではありません。しかし、薬歴があることで「医療の質」を向上させることができます。このことは医薬分業つまり、保険薬局の存在意義でもあります。

例えば、腎臓の悪い患者さんには、ARBという種類の血圧の薬が処方されることがあります。ARBは、腎臓の機能の悪化を防ぐことができると考えられています。しかし、このARBには「カリウムの上昇」という心臓を止めかねない重大な副作用があります。もともと、腎臓が悪い方はカリウムが上昇しやすいので、血液検査を定期的に行う必要があります。薬剤師は、患者さんの腎機能の数値や、カリウムの数値、どの程度の間隔で血液検査を行っているのかを確認し、その情報を薬歴に記載します。しばらく、血液検査が行われていなければ、血液検査をするように患者さんや病院に対し、その旨を伝えます。また必要時には、カリウムを多く含む食品や、カリウムを落とすための調理のポイントなどもアドバイスします。食事などの生活習慣の記録も薬歴に記載します。

これは、ほんの一例です。薬剤師は、薬歴によって「薬の副作用の防止」や「薬の適正使用」、「医療費の削減」などを行っているのです。

 

 

【保険薬局の薬剤師の役割】
薬剤師は、独自の専門性をもって、患者さんと向き合うことができます。薬が体内に入ったあと、薬の特性や時間などから、患者さんがどのような状態なのか。現在、呈している症状を薬学的に読み解くことができます。つまり、薬剤師は薬というものだけを渡しているのではなく、薬というものを通じて健康を渡しているのです。

 

また、薬局の数は全国で約5万5000件であり、コンビニよりも多いのです。その中には、患者さんよりも利益優先(ものを渡すだけ)と考えている薬局もあるかもしれません。毎日の限られた時間の中で、早く薬を作り、間違いなく薬を患者さんにお渡しすることも大切です。しかし、その目先のことばかりではなく、薬歴という(地味ですが)重要な記録をおろそかにせず、患者さんとしっかり向き合うことが一番大切なのだと思います。

 

実際、私の周りには「そんなこと当たり前だ」と胸を張って言える薬剤師ばかりです。信頼できる薬局を見つけ、信頼できる薬剤師を応援していただける方が少しでも増えることを願い本文を掲載いたしました。

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