洞結節がおやすみしたら

心臓が収縮するための電気刺激は、「洞結節からはじまり、房室結節→ヒス束→右脚・左脚→プルキンエ線維」へと伝わります。洞結節が興奮できず、電気刺激を生み出すことができなければ心臓は止まってしまうように思えます。

 

しかし、心臓はそのための準備をしています。つまり、心臓が止まってしまわないように、洞結節以外に自動能をもつペースメーカーがいるのです。以下の図は、心臓の各部位の活動電位を表しています。

 

fast response(急速応答):心房、心室、プルキンエ線維

 

slow response(緩徐応答):洞結節、房室結節

4は、活動電位の「4相」とよばれます。4相は、fast response(急速応答)もslow response(緩徐応答も、緩く上へ向いています。これは、静止期でもT型Caチャネルからの緩い脱分極が起こっているためです。つまり、これらの細胞も洞結節と同様に、自動能をもっているのです。1分間の興奮回数は下位ほど少なくなります。

 


出典:不整脈の読み方

 

房室結節は、洞結節が興奮できないとき、代わりに興奮するようにつくられています。L型Caチャネルの開く電位は「洞結節:-30mV、房室結節:-20mV」のように、房室結節の方が高い閾値(洞結節の方が興奮しやすい状態)をもっています。

 

つまり、静止状態になり、緩徐脱分極(T型CaチャネルからのCaイオンの流入)が起こっているのは、洞結節だけではありません。房室結節、プルキンエ線維でも、それぞれが自動的に興奮する能力(自動能)をもっているのです。

 

その自動能の仕組みは、どの細胞でも共通で、ペースメーカー電位と呼ばれる閾値(L型Caチャネルが開く電位)を備えています。洞結節では70回/分、房室結節では50回/分といった具合です。しかし、正常時には、洞結節以外では閾値に達することはありません。

 

洞結節がお休みした場合のみ、房室結節が変わりに興奮し心臓を動かすのです。脱分極の頻度は下部にいくほど間隔が広がります。プルキンエ線維では30回/分程度であり、この部位がペースメーカーになったのでは長期の生存は難しいといわれます。

心臓に影響を及ぼすもの

運動などで身体が興奮状態になると、心臓の動きは速くなります。そして、心臓は身体全体からの血液の要求に応じて動きます。ここで関係するのは、主に自律神経です。

 

自律神経(カテコールアミン・アセチルコリン)の影響
本来、心臓は勝手に動いており、自律神経の支配をほとんど受けていません。自律神経の役割は、あくまでもほんの一部といわれます。しかし、自律神経(交感神経副交感神経)による二重の支配の下にあることは事実です。

 

交感神経は、心房や心室の全体にわたって分布しています。副交感神経は、洞結節・房室結節・心房が主であり、心室にはほとんど関係しません。洞結節では、自律神経の刺激で心拍数が変化します。

 

洞結節での交感神経・副交感神経の影響

 

交感神経と洞結節
洞結節の細胞のカテコールアミン受容体(図の右側)にアドレナリンの刺激がくると、緩徐脱分極(少量Caイオンの流入)が速くなり、頻拍(β-刺激)があらわれます。これは、閾値への到達が早くなるためです。

 

β-遮断薬を使用すると、Caイオンの流入が抑制され、閾値に到達するのが遅くなり、頻脈を抑制することができます。

 

また、β-刺激薬を使用すると、Caイオン流入が増加されます。そして、細胞内のCaイオン濃度が増え、頻脈になります。さらに、Na-Kポンプの増強作用もあります。

 

副交感神経と洞結節
洞結節のアセチルコリン受容体(図の左側:M2受容体)にアセチルコリンの刺激がくると、細胞内からKイオンの流出(アセチルコリン感受性Kチャネルが開く)が起こります。そして、電位差の深い状態が続き、閾値への到達が遅くなります。つまり、副交感神経の刺激は、心拍を抑制するのです。

 

 

徐脈を頻脈にしたい時、抗コリン薬でアセチルコリン受容体を遮断すれば心拍を速くすることができます。心房では、脱分極時にアセチルコリンの刺激でKイオンの流出を起こし、収縮時間が短くなります。

 

ベラパミル、ジルチアゼムなどのCa拮抗薬は、L型Caチャネルを抑制しCaイオンの流入を阻害し、脱分極を緩やかにします。このため、頻脈時には、ベラパミル(ワソラン)、ジルチアゼム(ヘルベッサー)が使用されます。

 

 

 

続いて、心臓を動かすイオンと電流

 

 

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