在宅医療における薬剤師の必要性

現在、小児から高齢者まで全年齢層に及んで在宅医療が行われています。そのうち、約85%が65歳以上の高齢者です。高齢者には、以下の特徴があります。

 

①複数の病気もっている
②症状が典型的ではない
③病気が慢性化しやすい
④病気の治療や予後に、社会的因子が関与する
⑤多種類の薬を服用している

 

複数の病気をもち、多種類の薬を服用している高齢者にとって、薬の重複や相互作用を防ぐことが必要不可欠です。そして、薬を安全かつ適正に服用するためには、薬剤師の存在がとても重要なのです。

 

薬剤師は、医師の処方する薬が適切であるか監査し、必要であれば疑義照会や訪問指導報告書、または往診同行などを通じて、薬物療法に介入しなければならなりません。

 

厚生科学研究「在宅医療薬剤供給推進検討事業」の報告書(1999年)には、薬剤師の在宅医療における役割として、次の13の内容が示されています。
①処方箋による調剤
②訪問薬剤管理指導(服薬指導、服薬管理、薬歴管理、医師・看護師等との情報交換)
③在宅医療用機器・用具・材料等の供給
④在宅患者宅における薬剤の保管・管理
⑤不要薬剤等の廃棄物処理(指導)
⑥患者の住環境等を衛生的に保つための指導・助言
⑦薬剤等の患者宅への配送
⑧高度在宅医療に必要な特殊製剤等の調剤・使用指導等
⑨高度在宅医療に必要な医療機器の使用指導
⑩患者・介護者のニーズの把握および関連情報の提供
⑪在宅介護用品、在宅福祉機器等の供給・相談の応需
⑫保健・医療・福祉関係者への医薬品情報等の提供
⑬患者・介護者等に対する啓蒙活動

 

 

薬剤師が在宅医療に関わることの意義は、患者のQOL(生活の質)を向上させることです。自宅は病院とは異なり、患者自身が最も心穏やかに過ごすための場所です。「2012年度 高齢者の健康に関する意識調査」(内閣府)によると、「介護を希望する場所」「看取りを希望する場所」の第1位は「自宅」なのです。

 

自宅における薬物治療は、以下のようにさまざまな影響を受けやすいとされています。訪問した薬剤師はそれらを読み取り、薬を通じてどのように患者のQOL向上のサポートができるかを考え、行動しなければなりません。

  • 住環境、家族環境
  • 「介護力」の有無
  • 老化に伴う内面的/身体的変化
  • 認知症をはじめとする疾患による精神的変化など

 

患者家族は、在宅開始時の不安や混乱、長期間にわたる介護でゆとりのない状態、終末期における精神的負担など様々な問題を抱えていることがあり、それらは時として患者が適切なケアを受けられなくなる要因もなります。

 

もし、在宅の現場に薬剤師がいなければ、薬の管理は患者家族、訪問ヘルパー、訪問看護師が行います。患者家族には、普段の介護に加え、薬の管理という大きな負担がかかります。また、訪問ヘルパーや訪問看護師が薬の管理に時間を費やしてしまうと、本来の業務である介護・看護の時間がなくなります。

 

在宅の現場で薬剤師は、患者や家族のみならず、介護に関わる他職種からも必要とされる存在なのです。

薬剤師が関わることで患者の生活の質が変化した例

エピソード 1
認知症、パーキンソン病の治療薬を服薬中の81歳女性。パーキンソン病治療薬の1日の服用回数は7回にも及び、介護する夫も高齢で薬の管理がうまく行えず、飲み忘れや、飲み間違いが後を絶たなかった。

 

処方医の依頼を受け薬剤師が訪問。一包化に加え、自作の服薬チェックシートを持参した。さらに、冷蔵庫に吊したホワイトボードに1日分をマグネットで貼り付け、服用後の空包を残すようにして、介護者がチェックできるよう指導した。すると患者の服薬状況が改善し、その結果、歩行や食事の動作が大きく改善した。

 

エピソード 2
右側片麻痺で器質性人格障害の73歳独居男性。睡眠薬と抗不安薬は服用できていたが、それ以外の薬はほとんど服用できていない状態だった。ケアマネジャーから依頼を受け、医師に連絡し、訪問を開始した。

 

当初、薬の説明を何度しても全く服用状況は改善しなかったが、「飲まない理由」を探り、「興味のある薬しか飲まない」ことに気付いた薬剤師が、それまで一包化されて
いた薬剤を全て1剤ずつ別包し、薬効をそれぞれ簡潔に書いた「薬効別のお薬トレー」を自作して持参した。そのお薬トレーを導入した後は患者が薬を飲むようになり、症状の訴えが減った。

 

エピソード 3
84歳男性。脳梗塞後、嚥下困難で胃瘻を造設し、退院に伴い在宅クリニックが訪問することになった。退院の際に病院から渡された薬は一包化されており、介護者である妻も問題なく管理できていが、初回訪問の際に詳しく確認したところ、妻は一包化された薬を全てペンチで砕いてから、ぬるま湯に溶かして胃瘻から注入していることが判明。

 

薬剤師は薬局で写真付きの簡易懸濁法の説明書を自作し、適切な温湯で溶かせば、錠剤は砕く必要がないことを説明。服用時間に合わせ、2度ほど訪問し、適切な簡易懸濁法を覚えてもらうことができ、服薬にかかる時間を大幅に短縮することができた。

 

エピソード 4
56歳女性。胃癌再発。地域の中核病院医療連携室から患者紹介を受け、退院後、在宅往診クリニックと薬局の訪問がスタートした。在宅中心静脈栄養法の患者で、高カロリー輸液を薬局の無菌室で調製し届けていた。癌疼痛に対し、麻薬の貼付剤を使用していたが、痛みのコントロールができず、麻薬の注射剤に切り替えることになった。

 

切り替え方法を医師が薬剤師に一任したため、薬剤師が訪問看護師とスケジュールの打ち合わせを行い、切り替えを実施した。薬剤師が訪問した期間は、退院からわずか3カ月であったが、最期まで痛みの緩和のための処方提案や副作用のチェックなどを行った。

 

以上、日経DI 薬局実務実習指導パーフェクトマニュアルより引用

 

 

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