​高齢者の糖尿病における血糖コントロール目標2016

​2016年5月、日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会で、血糖コントロールの目標値(HbA1c)が発表されました。

 

この血糖コントロール目標は、患者の健康状態(認知機能やADLなど)の評価によって、分類される特徴があります。

 

大きな分類はカテゴリーⅠ~Ⅲの3つですが、使用している薬剤や年齢によってさらに細かく分類されています。

 

カテゴリー分類

以下、一般社団法人日本老年医学会の分類に基づき、フローチャートを作成しました。

 

認知機能、基本的ADL(日常生活動作)、手段的ADL(IADL:手段的日常生活動作)、抱えている疾患や機能障害の確認を行い、カテゴリーの判断を行います。

 

専門的な部分が多いため、一般の方の使用はオススメできません。

 

 

▶​認知機能
記憶、遂行機能(目的をもった一連の行動を自立して有効に成し遂げる機能)、情報処理能力などをさします。以下の方法などによって判断されます。

 

 HDS-R(改訂長谷川式認知症スケール)

 

 DASC-21(地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート):IADLやADLの項目も含まれています。

 

 

▶基本的ADL
普段の生活で行っている着衣、移動、入浴、トイレの使用など、基本的な行動をさします。

 

以下の方法などによって判断されます。

 

 Barthel Index:整容、食事、排便、排尿、トイレの使用、起居移乗、移動、更衣、階段、入浴の10項目をチェックし、点数が高いほど自立していることを表します。

 

 

▶手段的ADL
買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など、ADLより複雑で高次な動作をさします。

 

以下の方法などによって判断されます。

 

 Lawtonの尺度:電話をする能力、買い物、食事の準備、家事、洗濯、移動の形式、服薬管理、金銭管理の項目をチェックします。

 

数値が高いほどIADLが高いということを表します。

 

 

出典:認知機能の評価法と認知症の診断(日本老年医学会)

 

​血糖コントロールの目標値(HbA1c)

​​

 

カテゴリー分類後は、重症低血糖が危惧される薬剤を使用しているか否かによって、さらに分類が行われます。

 

重症低血糖が危惧される薬剤とは、インスリン注射製剤、スルホニル尿素剤(SU薬)、グリニド薬などをさします。

 

これらの薬剤が使用されている場合のみ、目標値(HbA1c)の下限が設定されています。

 

 

つまり、血糖値を下げすぎてもいけません。

 

血糖コントロールを厳しく行うと重症低血糖が起こりやすくなります。

 

そして、厳格な血糖コントロールは、細小血管症(腎症、神経症、網膜症など)や死亡率を増加させる報告※があります。

 

※ACCORD(Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes)Trial

 

 

上記基準はありますが、合併症予防のための目標値(HbA1c)は7.0%未満です。

 

ただし、食事療法、運動療法、薬物療法(副作用がない場合のみ)によって達成可能な場合、目標値(HbA1c)は6.0%未満です。

 

治療の強化が難しい場合、目標値(HbA1c)は8.0%未満です。

 

カテゴリーIIIにおいて、薬を多く使うことによる副作用の危険がある場合や、重篤な併存疾患を有し、社会的サポートが乏しい場合などには、8.5%未満を目標とすることも許容されます。

 

 

一般的に、糖尿病は患者の罹病期間も考慮し、治療を行うべきだと考えられています。

 

合併症発症や進展阻止が優先される場合には、患者ごとに目標値(HbA1c)や下限を設定することもできます。

 

糖尿病の罹病期間が長期である場合、血糖値を下げすぎると死亡率が上がるため、薬剤の種類に関わらず注意が必要です。

 

しかし、日本老年医学の基準では、65歳未満から治療中でありHbA1cの下限を下回る場合、基本的に現状を維持しますが、重症低血糖に十分注意する必要があると考えられています。

 

重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン以外)

一般的に、スルホニル尿素剤(SU薬)、グリニド薬は低血糖のリスクが高い薬だと考えられています。

 

 

SU薬には、グリメピリド(アマリール)、グリクラジド(グリミクロン)、グリベンクラミド(オイグルコン、ダオニール)、アセトヘキサミド(ジメリン)、クロルプロパミド(アベマイド)などの多くの種類の医薬品があります。

 

この中で、グリベンクラミド(オイグルコン、ダオニール)、アセトヘキサミド(ジメリン)、クロルプロパミド(アベマイド)は、低血糖の危険がより高く、高齢者への使用は控えることが強く推奨されています。

 

グリメピリド(アマリール)、グリクラジド(グリミクロン)などのSU薬も、低血糖に注意が必要です。

 

低血糖が疑わしい場合には、薬の減量を行うべきだと考えられています。

 

 

グリニド薬には、ナテグリニド(スターシス、ファスティック)、ミチグリニド(グルファスト)、レパグリニド(シュアポスト)があります。

 

この種類や使用量、患者の血糖値等を勘案し使用されます。

 

この場合によって「重症低血糖が危惧されない薬剤」に分類されることがあります。

 

高齢者の基準とガイドライン2015

日本老年医学会によると、高齢者とは、「75歳以上の高齢者とフレイルな高齢者」を対象としています。

 

フレイルとは、身体的な問題と社会的な問題、精神・心理的問題を抱えた要介護状態の前段階をさします。

 

身体的問題とは、筋力低下、動作緩慢、易転倒性、低栄養など、加齢に伴いストレスに対する脆弱性が亢進した状態です。

 

社会的問題は独居や経済的困窮などを、精神・心理的問題は認知機能障害やうつなどをさします。

 

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