高齢者の不整脈と薬

​高齢者は、薬による有害事象の頻度が高く、重症例が多いといわれます。薬物療法の安全性を高めるために、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015:日本老年医学会」が作成されています。その中から、特に注意するべき内容をまとめました。

 

お願い:薬を急に中止することは危険です。気になる内容がありましたら、かかりつけ医・かかりつけ薬剤師にご相談ください。

高齢者に使用する「不整脈薬」の注意点
①抗不整脈薬において、症状の改善や再発防止などの効果が明らかでない場合、継続が必要かどうか見直しをすべきである。効果が認められない場合には、潜在的な有害事象を考慮し「継続する必要はない」と考えられる。

 

②ジギタリス製剤(※)を使用する場合、ジギタリス中毒を起さないために、1日あたり0.125mgをこえる投与を避ける。(高齢者は、腎臓の排泄機能が落ちていることが多いためである。)実際に、介護施設入所者における心不全患者について検討した結果、26%に潜在的なジギタリス中毒の可能性があるとの報告がある。

 

③ジギタリス製剤の使用が1日あたり0.125mg以下でも、心電図や血中濃度の測定ができない場合は使用中止を考慮する。

 

①日本老年医学会の推奨度:弱、エビデンス(根拠)の質:低
②日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:高
③日本老年医学会の推奨度:弱、エビデンス(根拠)の質:低

 

 

※ジギタリスは、心房細動の心拍数調節に使用されることがある。

 

 

近年、不整脈の薬物治療は、症状の軽減が主な目的となっています。そして、不整脈そのものよりも、基礎にある「心疾患や心機能障害」への対応が重視されるようになっています。この背景には、抗不整脈薬の役割を明らかにするCASTやAFFIRMなどの臨床研究の結果があります。

 

また、欧州の心臓病学会の心房細動ガイドラインには次のような記載があります。

  • 抗不整脈薬は症状を軽減する目的で行うもの
  • 抗不整脈薬による新たな不整脈の出現や心外性副作用はしばしば生じるもの
  • 抗不整脈薬の選別は効果よりも、まず安全性を指針とすべきである

 

一方、不整脈の非薬物療法(薬を用いない治療)として、埋め込み型除細動器(ICD)やカテーテルアブレーションなどの有効性が示され普及しています。

 

実際に、期外収縮は治療することはほぼなくなり、致死性の心室性不整脈にはICDを、上室頻拍や心房粗動などの不整脈はカテーテルアブレーションで治療します。よって、抗不整脈薬は、主に症状のある発作性心房細動に用いられています。

高齢者の循環器疾患と薬

抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)に対する薬の注意点

④複数の抗血栓薬を併用すると、単独で使用するときよりも大出血のリスクが上昇する。複数併用によるメリットは、単独投与と比較して限定的である。長期間(12ヶ月以上)にわたる複数の抗血栓薬の投与は、原則として行わず単独投与とする。

 

抗凝固薬を服用している患者において、「高血圧、腎障害、肝障害、脳卒中の既往、出血の既往、出血性疾患、PT−INRの高値(ワルファリンの服用など)、高齢(75歳以上)、抗血小板薬の併用、NSAIDsの併用」が大出血の危険因子である。

 

β遮断薬(ビソプロロール、カルベジロール)は、心不全の高齢者に対しても予後を改善する効果があり、一般的に安全である。US Carvedilol study や CIBIS-Ⅱ、COPERNICUSなどの研究によって、「軽症から重症の慢性心不全」に頻用されるようになった。

 

④日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:中
⑤日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:高
⑥日本老年医学会の推奨度:強、エビデンス(根拠)の質:高

 

主な抗血小板薬一覧

代表的な一般名称 代表的な商品名
アスピリン バイアスピリン、バファリン81mg
チクロピジン パナルジン
クロピドグレル プラビックス
プラスグレル エフィエント
シロスタゾール プレタール
サルポグレラート アンプラーグ
イコサペント酸エチル エパデール

 

 

主な抗凝固薬一覧

代表的な一般名称 代表的な商品名
ワルファリン ワーファリン
ダビガトラン プラザキサ
エドキサバン リクシアナ
リバーロキサバン イグザレルト
アピキサバン エリキュース

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「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」の対象  循環器疾患 
なぜ高齢者に薬物有害事象が多いのか 呼吸器疾患
高齢者の服薬管理とその支援 腎不全(CKD)
認知症周辺症状(BPSD) 消化器系疾患
高齢者の不眠症 排尿障害(過活動膀胱)
高齢者のうつ病 薬剤師の役割
認知症の中核症状 ポリファーマシーとは 

 

参考:日本老年医学会
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015
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より詳しい情報知りたい方は、書籍の購入をオススメします。



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