ポリファーマシーとは
ポリファーマシーとは、明確な基準はありませんが、「必要以上に薬を飲んでいて、薬による有害事象が起こっている状態」をさします。単純に「4~6種類以上の薬を飲んでいる状態」をさすこともあります。ポリは「たくさん」、ファーマシーは「調剤」という意味。調剤とは「薬剤師が(患者に)薬を交付すること」です。
ポリファーマシーには、次のような問題点があると考えられています。
①薬による有害事象(健康被害)
②薬の飲み間違い(どの薬を飲んだかわからなくなる)
③医療費の増大(患者負担金額の増大かつ、国の財政圧迫)
④薬への理解の低下(全ての薬を覚えきれない)
一般的に、薬を使えば使うほど、有害事象(副作用)の危険が増します。飲んでいる薬の数が1~3種類の場合、有害事象を起こす割合は6.5%です。それが6~7種類になると、13.1%の有害反応を起こすというデータもあります。
ポリファーマシーによって副作用、費用、救急外来受診率、入院期間、合併症率、転倒、骨折、死亡率が高まるため、服用する薬の数は「5種類以下を目指すべき」だといわれています。
ポリファーマシー(医療者側の問題)
処方(医師)の問題
ポリファーマシーの原因の一つに、処方のカスケード(Prescribing Cascade)があります。処方のカスケードとは、薬の副作用に対して別の処方がなされ、さらにその副作用が次の処方につながるという連鎖をさします。
一例ですが、血圧の薬である「ACE阻害剤」には空咳の副作用があります。その咳を風邪だと診断し「咳止め」が処方されます。そして、「咳止め」には便秘の副作用があるため、「便秘の薬」が処方されるという流れです。
病院(診療科)の問題
多くの病院は、診療科ごとに縦割りになっています。つまり、足が痛ければ整形外科、のどが痛ければ耳鼻咽喉科を受診しなければなりません。その結果、両方の科から痛み止めが処方されるなど、薬が重複しがちです。
医学教育の問題
「今の医学教育は足し算。薬をいかに使おうとするかという発想しかない。薬を足し算することは得意だが、引き算は全く教えられていない。」という意見もあります。
薬漬け、処方されるまま 13種飲み副作用
…86歳救急搬送 医師同士、情報共有せず
医師が処方した多くの薬を患者が飲み続けた結果、具合が悪くなって救急搬送される例が後を絶たない。薬の情報が、医師同士や薬剤師の間で共有されず、重複したり、飲み合わせが悪くなったりするからだ。厚生労働省は患者が飲む薬を一元的に管理する「かかりつけ薬局」の普及を進めるが、課題も多い。
水戸協同病院(水戸市)の救急外来には、薬の副作用で体調を崩した患者が多く運ばれてくる。特にお年寄りが多い。
同病院に今春まで勤めていた阿部智一医師らが、2013年末までの9カ月間に運ばれてきた85歳以上の高齢者381人を調べたところ、7%が薬の副作用が原因だったという。服薬していた高齢者の7割が5種類以上飲んでおり、最も多い人で22種類飲んでいた。
めまいや嘔吐(おうと)などの症状で運び込まれてきた女性(86)は、13種類の薬を飲んでいた。そのうち、高血圧薬や利尿薬による副作用が原因とみられた。尿が出なくなったという男性(87)は、不整脈を防ぐ薬の副作用が原因とみられ、12種類の薬を飲んでいた。
阿部医師は「多くの病気を抱える高齢者は複数の診療科にかかるため、薬が増えやすい。体全体の機能が衰えており、薬の影響が強く出る。体の状態に応じ、常に薬の種類や量を見直す必要がある」と話す。
出典: 朝日新聞 2015年5月25日(月)配信
ポリファーマシー(患者側の問題)
ポリファーマシーは医療者だけでなく、患者側にも問題があります。日本の医療費は安く、「せっかく病院にきたのだから、薬くらいもらって帰りたい」という心理が蔓延しています。
さらに、以下のような価値観や遠慮は、ポリファーマシーを防ぐ妨げになります。
「体調が良いから薬を減らす必要はない」(価値観)
「せっかくお医者さんが出してくれたのだから、飲んでおきたい」(遠慮)
日本において、患者に対する「処方薬の数」が多いことは、以前から指摘されていました。もちろん、薬を減らすことによるデメリットもあるため、ポリファーマシーの全てが悪ではありません。しかし、高齢者において、ポリファーマシーは「大きな問題」であり、上記の有害事象は他人ごとではありません。
これらの問題を解決するためには、医療者と患者が共に学ばなければなりません。
ポリファーマシーを解決する方法
ポリファーマシーを解決するための方法(一般向け)
- 薬剤師を活用する
- お薬手帳を活用する
- 「薬を減らす医師は、良い医師である」という認識を広める
- たくさんの病院にかからない
- 処方された薬をしっかり飲む
詳細は、こちらポリファーマシーを解決する方法(一般向け)です。
ポリファーマシーを解決する方法(医療者向け)
- 減処方のプロトコール(Deprescribing)の活用
- 日本版ビアーズ基準(Beersクライテリア)の活用
- STOPPクライテリア、STARTクライテリアの活用
- 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015-日本老年医学会
- SCAP法
- MAI|ポリファーマシー解決法
- ベンゾジアゼピン系薬の減量・中止
ポリファーマシーは、ただ解決すればいいというわけではない(医療者向け)
詳細は、リンク先をご覧ください。一般の方もわかるように作成しています。