心臓の動きと身体の働き

心臓は全身に血液を送る役目があり、弱ったからといって休むわけにはいきません。しかし、身体は心臓に向かって「何としても血液をよこせ」と言います。心臓は弱りながら、この要望に応え続けなければなりません。

 

弱った心臓の代謝機構

出典:心不全と付き合うコツ

 

心臓が弱ってくると、まず部屋(心室)を大きく拡げ、多くの血液を貯めようとします。心室の内部を拡げることで、心拍出量を増やしポンプ機能の障害をカバーするのです。また、心室の壁を厚くして(細胞の肥大・線維化)、収縮に必要な力を出せるように対応します。

 

しかし、それが持続すると心筋はどんどん肥大(拡大)していきます。その肥大(拡大)した細胞に対しては、冠動脈からの血液の供給が満足にできなくなります。そして、細胞は徐々に弱り、収縮力は時間とともに低下していくのです。

心臓の組織的な対応

身体は心臓に対して「手助けしてやるから働け」と命令します。その手助けとは、交感神経やレニン、アンジオテンシン、アルドステロンといった「血圧などの調節に関わるホルモン」です。これらによって、血管が収縮し身体のすみずみまで血液を運ぶことができます。

 

心臓の組織的対応に関して(岡山大学 伊藤浩先生の一文を引用)
これまで何万年もの間、人類最大の脅威は出血でした。出血、循環血流の低下という危機に対応するために、私たちの祖先は交感神経系やレニン‐アンジオテンシン系(RAS)という「非常装置」を高度に進化させました。

 

ところが、今、この「非常装置」が思わぬ事態を引き起こしています。高齢化とともに、ますます増加する「心不全」です。心機能が低下すると交感神経系やRASを活性化させます。しかし、出血は自然治癒できても、病的な心機能低下は自力で止める術はありません。

 

交感神経系やRASの活性化は延々とつづくのです。次第に心臓は疲弊し、組織は障害され、そして行き着くところには「死」があるのです。

注)レニン-アンジオテンシン系(Renin-Angiotensin System;RAS)、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(Renin-Angiotensin-Aldosterone System;RAA)は、血圧などの調節に関わるホルモン系の総称です。

 

慢性心不全には、交感神経・RAA系が大きく関係します。

出典:慢性心不全 (MMPは、細胞外基質を誘拐する酵素)

 

伊藤先生が言われるように、循環器系に種々の障害が起これば、心臓の動きは徐々に弱ってきます。そこで、心臓の弱体化に備えて、身体はいろんな方策を用意しています。

 

その方策とは「をどうやってしのぐか」ということです。身体のすみ(心臓から遠いところ)で血液が必要であれば、交感神経やRAA系を利用し、血液を送ります。このことが将来的に心不全につながるなんて考えないのです。つまり、身体は「将来を予測する」ようなことは(基本的に)しないのです。

 

交感神経とRAA系の詳細
心臓が弱り心拍出量が減ると、血圧が低下し、血液の流れが悪くなります。それに対応するため脳(中枢)からは、交感神経を亢進させます。つまり、心臓の動きを強め、血管を収縮させ血液循環をよくしようと働きます。しかし、それは細胞の肥大・線維化にも関係しているのです。

 

また、血液の循環と共に体内の内部環境を正常にするために、腎臓からRAA系を亢進させます。つまり、不要物の排泄・体内の水分量・電解質などを補正しようと働きます。同時にRAA系は細胞を肥大させ、心筋細胞の間に線維化を起こし補強するのです。

 

これらの状態は、今をしのぐための手段であり、心臓に無理を強いています。さらに、脳や心臓など酸素の必要性の高いところには血液の流れを良くし、酸素を届けます。しかし、必要性の少ないところには、血管の収縮で(酸素の)配分を少なくし犠牲にします。

 

こうした身体の対応が長期的に続くと、弱った心臓は(後負荷が増すため)さらに弱体化してしまします。これを証明するように、「血中のノルアドレナリン濃度が高くなるほど、心不全の予後が不良である」といわれています。

 

心不全症状の悪化に伴って、交感神経の過度の興奮状態が起こります。つまり、頻脈、血管抵抗の増大、β1受容体のdown-regulation(受容体の退化・減少など)などを引き起こし、心筋細胞のアポトーシス、すなわち心筋のリモデリングにつながります。

 

 

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